熱 ページ46
『ご立腹のところ、申し訳ないんだけど』
控えめに声をかけられた。声から察するに来夢だろう。
『どうなった？』
「あ、ごめんね。博喜さんはもう大丈夫！多分そのうち…」
博喜の手が司咲の手を優しく握り返した。瞼が震えて、彼の綺麗な瞳が顔を出した。
「…博喜さんっ！」
ぶわっと涙が溢れた。
「……あれ？」
その胸に抱きついた。
『博喜〜。生きてるか？』
「生きてるよ。……あれ、どーゆー状況？」
起き上がって司咲を受け止めた博喜は視線を彷徨わせて、驚いた。
「あれ、なんかいろいろ見えるけど、なにこれ」
「私の霊力、かなり流し込んじゃったから…。多分明日には見えなくなってると思うけど…」
「これが普段司咲ちゃんが見てる光景？」
司咲はこくりと頷いた。その胸に耳を当てて心臓が動いていることを確認して離れた。
「基くん、博喜さん一晩預かってもいい？このまま帰すのは危険すぎる」
『おー。いいよ。遅くても16時にはこっち来いよ〜』
ゆるっとそう言う基裕に気のない返事をして博喜はただ視線を彷徨わせていた。
「博喜さん、目を合わせちゃダメだからね」
「いや〜。難しいな〜。てか、なんでこんな状況になってんの？俺、司咲ちゃんに声かけたところまでしか覚えてないんだけど」
「あの時、あの場に悪霊がいたの。私に声をかけたから、多分大切な人だと思ったんだと思う。悪霊が博喜さんに取り憑いたの」
『俺もびっくりしたよ。いきなり電話来たと思ったら泣いてんだもん』
「ごめんね」
『博喜も司咲も無事でよかったよ』
「…あとね、博喜さんに謝らなきゃいけないことがある」
「巻き込んだとか思ってるならそれは違うからね。司咲ちゃんが助けてくれたんだよね？ありがとう」
笑顔で、握ったままの司咲の手を両手で握った。
「それは、そうだけど…。そうじゃなくて」
司咲は上目遣いで博喜を見上げて、俯いた。その頬に熱が集まっていく。
「……えっと、その…」
「言いにくいこと？」
「……キス…しちゃった…から…」
俯いたまま、司咲は顔を覆った。恥ずかしくて、顔が熱くて熱くて博喜の顔が見れなかった。
「…ごめんなさい…っ」
「いいよ。大丈夫。俺を助けるためだったんでしょ？」
頷いた司咲の肩を博喜の手がポンポン、と叩く。
「こう言ったらなんだけど…。はじめてではないから本当に大丈夫だよ」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
