怪我 ページ27
袖を捲ると、傷の周りが広範囲赤く染まっていた。血を拭き取ると、消毒をして大きめの絆創膏を貼った。
「なんか、怪我ばっかりしてるね」
彼の視線の先には膝に貼られた絆創膏があった。それをスカートで隠して俯いた。
「手当て、ありがとうございます」
ただただ悲しくて、司咲は顔をあげられなかった。基裕たちが帰ってくる頃、司咲の頬は涙で濡れていた。
司咲の涙を見るのは2回目だった。1回目はつばさが彼女を傷つけた時の涙。そして今回は、何かに悲しんで流す涙。でもそれは基裕を怒らせてしまったから泣いているわけではない。
「司咲ちゃん…」
背中に触れようとすると、すかさずその手を払い除けられる。触れることさえ許されないつばさに彼女を慰めることなんてできなかった。
基裕は泣いている司咲の前にしゃがむと肩に触れて、優しく引き寄せる。
「司咲、なんで泣いてるの?」
抱きしめられて、司咲は基裕の背中に腕を回す。やはりその腕の中は温かくて、優しくて安心する。
「さっきの…さっきの人は、私、だった…」
「それ、みんなも聞いていいやつ?」
司咲は基裕の胸の中でこくんと頷いた。ここまできたらもう、聞こうと聞くまいと同じだ。
「あの時、……死んでいたら、私も同じようになってた…。あの人は、ただ見えるだけで理不尽に疎まれて忌み嫌われて、挙句殺されたの」
「自分と重ねちゃったんだ。だから、怪我してまでその人のこと助けたいって思ったって事?」
小さく頷いた。お人好しだと、あの霊は言った。だけど、そんなんじゃないのだ。司咲はただ共感してしまっただけ。
「でもね、俺は司咲に怪我してほしくない」
肩を押して少し離れると、基裕は司咲と目を合わせた。
「女の子なんだし、第一俺の大事な妹分なんだから。もう無茶しないで。約束して」
基裕が差し出した小指に司咲は自分の小指を絡めた。
「……うん」
「結論としてはなんだったの?」
「寂しかったんだと思う。だから、私が見える人間だと知って、多分過去を思い出して悪意に染まった」
「そうか」
ぽんぽん、と頭を撫でて基裕は置いていかれている他のキャストの前に司咲を差し出した。隣に座り、優しく背中を撫でる。
「司咲は」
「いい!私が言う」
基裕の口を塞いで、司咲はそう言った。今にも泣きそうな顔をしながら言う彼女に基裕は頷いた。
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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月29日 15時