もしも、運命なら… (ページ22)

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圧倒ページ22

司咲はあんなにキラキラとは笑えない。この会場の中にだって霊がいるし、舞台の上にもふよふよと浮いている。

それらを見ないように俯いた時、不意に肩を叩かれた。反射的に振り払ってそちらを見る。笑顔のつばさが立っていて、司咲は途端に嫌そうな顔をした。

「あ、その顔結構傷つく」

片方のイヤホンを外されて、抵抗する間もなく彼の声が滑り込んできた。司咲の右隣の席に座って、つばさは笑いかけてくる。

「刀剣乱舞好きなの？ここにいるってことは誰かの関係者？」

全く何も言わずに音楽に耳を傾けている彼女につばさは悩ましげに天井を仰いだ。

「何聞いてるの？」

「…阪本奨悟。もういいですか」

問いかけると意外にも答えてくれた。一言だけしゃべるとまたイヤホンで耳を塞いだ。

何故この人がここにいるのか、とか何故席が隣同士なのか、とか少しばかり憤りを感じてしまう。

「ねぇ、公演終わったらご飯行こう」

またイヤホンを取られて、そう言われる。何故いつもいつも邪魔をするのか、と睨みつける。

「先約があるから嫌です」

その言葉を聞いて、つばさは驚いていた。ただ『嫌です』と断られると思っていたから。先約があることにも驚きだが、司咲を誘って断られないその人に少しだけ嫉妬してしまう。

そうしているうちに開演の合図が鳴り、司咲はイヤホンを外して鞄に仕舞い込んだ。

開演し、少しするとピンクの髪の大好きな兄貴分が登場して、思わず息を呑んだ。普段からイケメンだとは思っていたが、こうして舞台上で見るとすらりと高い身長も手伝って、とても。

「…かっこいい」

ぼそりと小さな小さな声で呟くとその頬に笑みを湛えた。夕焼けを見つめていた時とはまた違い、輝く笑顔。つばさの心臓が強く高鳴った。『ミュージカル刀剣乱舞』という世界観に司咲は初心者すぎて、ストーリーはほとんど理解できていなかった。それでも、目の前で芝居をする基裕がまるで異世界から来た人みたいだった。きっとそれが、世間が2.5次元を支持する理由なのだろう、と勝手に推測した。

ただただ、圧倒された。

公演の間は霊の事も、あまり進んでいない再就職のことも忘れて、ただ純粋に楽しんでいた。

ライブの客降りの途中、司咲を見つけた基裕はウインクをした。大勢の観客がいる中、司咲を見つけてくれたのがなんだか少しだけ嬉しかった。