フラフラ ページ20
「大丈夫？」
「…大丈夫です。離してください」
掴まれた腕を振り払う気力がなくて、つばさの誘導でしゃがんだ司咲は目元を押さえた。
2日連続の霊との逃走劇に加え、仕事探しで疲労が溜まってしまったかもしれない。それに加え、弱いものではあったが、少しあてられてしまったかもしれない。
「乗って」
見ると、つばさが背を向けてしゃがんでいた。だが、司咲は首を横に振った。少しこうしていれば大丈夫なのだ。
「それともお姫様抱っこの方がいい？」
今はもう一歩だって動けない。不快感が肌から外に出ていくのを待つしかないのだ。
なかなか動かない司咲につばさは痺れを切らしたのか、動き出した。
「時間切れ〜」
ふわりと浮いた体。驚いて手元にあった服を掴んだ。
大きな瞳が見開かれた。彼女の手に掴まれた二の腕の服。声は出ていなかったけれど、その時、はじめて司咲とちゃんと目が合った気がした。つばさの心臓がドクドクとうるさく鳴り響いている。
「……下ろして…」
「ダメだよ。下ろしたら司咲ちゃん、逃げるでしょ。それに、フラフラしてるんだから大人しくしてて」
司咲はせめてもの抵抗としてその胸を叩いた。力の入らない手では全く痛くはなかったけれど。
どんなに拒否されても、拒絶されてもやはりつばさは司咲が好きだった。大嫌いと言われても、つばさは司咲のことが大好きだった。
「もう、私に構わないでください…」
弱々しい声。何かに怯えている声。悲しんで、苦しんでいる彼女を助けたくて、だけどまた傷つけてしまいそうで、つばさは何も言えなかった。
「お願いですから…」
ぐらぐらと揺れる視界の中、司咲は脳内で大好きな歌を流していた。そうしていないとどうにかなってしまいそうだったから。
目を覆ったまま、つばさの歩みに合わせて揺れる体が不愉快だった。兄貴分の基裕以外の誰かに触れられるのが嫌だった。
「着いたよ。司咲ちゃん、何階？」
「もう大丈夫です。下ろしてください」
「本当に？無理してない？」
心配そうな彼の腕から逃れて、服の裾を叩いて直す。
「ありがとうございました。もう私に関わらないでください。さようなら」
「司咲ちゃ……」
まだ少しだけフラフラしながら乗り込んだエレベーターが閉まった。つばさは伸ばした手をギュッと握り込んだ。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
