原因 ページ16
ぐいぐい行きすぎたのだと、彼女の涙を見て理解した。
「…何やってんだろ…」
完全に嫌われた。自業自得だが、心に鉛を落とされたように重くて苦しい。
振り返ると、もう彼女はいなくてつばさはため息を吐いた。
友だちだ、などと言いながら“友だち”ではもう満足できないのに。
つばさの行動がこんなに彼女を傷つけてしまうなんて思っていなかったのだ。泣かれるなんて想像もしていなかった。
「最低だ、俺」
呟いて、つばさは来た道を戻った。彼女の嫌い、という言葉がずっとリフレインしていた。
どこかぼんやりとしているつばさを心配したのか、幽遊白書の稽古の休憩中、荒木宏文が隣に座った。失敗が目立っているわけでもないし、稽古は順調に進んでいる。だけど、稽古に集中することで何かを紛らわそうとしているように見えたのだ。
「つばさ、なんかあったでしょ」
「えっ？」
「何かを紛らわそうと必死になってるように感じる。ま、話したくないならいいけどね」
ぐぐっと伸びをする宏文と横目で目が合った。つばさはあはは、と乾いた笑みを浮かべた。
「好きな人に嫌われちゃった」
「うわ、思った以上にハードな内容だった」
宏文は腕を組んでつばさに顔を向けた。
好きな人がいた事にも驚きだが、つばさみたいな柔らかい人間を嫌う女がいる事にも驚いた。
「つばさ、何かしたの？」
「距離感間違えちゃった。少しぐいぐい行きすぎて傷つけちゃった」
「つばさが悪いって分かっているなら早めに謝った方がいいな。今メールで謝ったら？」
宏文の言葉につばさは首を振る。
「連絡先知らない」
それに宏文は驚いて目を見開いた。
「え、好きなんじゃないの？最初に聞かなかったの？」
「聞いたけど、断られた」
「もしかしなくても、原因それか」
「うん。原因のひとつかな」
でも、もうひとつの原因は言えない。司咲のために言わない方がいいと思った。それを表情で読み取った彼はんー、と天井を見上げた。
連絡先を知らない相手に謝るなんて容易じゃない。きっと会いに行ったとしても逃げられるか更に怒らせるかのどちらかだろう。
難しい問題だ、と宏文は顎に手を当てる。
「会いに行くしかないかぁ…」
ボソッと呟いて、宏文はつばさの肩を両手で掴んだ。
「とりあえず会いに行け」
「…え」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
