決断 ページ14
この想いの名前をつばさはもう分かっていた。経験がないわけではないから。出会ってすぐに落とされた。それがなんだか少し悔しかった。所謂、一目惚れというやつなのだろう。
好きになってしまったから、『関わらないで』と言われて思いの外ショックを受けてしまったのだ。拒絶されて悲しくなった。
まるで少女漫画のように出会って恋をしてしまったが、もうなんでも良かった。誰になんと言われてもつばさは司咲のことが好きなのだ。
ただ、連絡先を教えてもらえない今、どこかでばったり会わない限りつばさが司咲のアパートへ出向く以外、彼女には会えない。
ため息をひとつ落として、彼女の家の方向を一度だけ振り返った。
「やっぱり、もう一回頑張りたい」
『そうか。じゃあ、俺も全力で応援させてもらう』
「ありがとう、基くん」
『試験はいつになりそう？』
「早くて8月中旬かな。まだ正社員になるって決めたばっかりだから」
司咲は電話の向こうに笑いかけた。迷っていたが、ちゃんと決断した。もう一度、正社員を頑張ってみたいと。事務仕事ではなくても、正社員としてみんなと同じように“普通”に社会に貢献したい。それに、一人暮らしで生計を立てていくにはやはり正社員の方がいい。
『そうだな。俺にできることあったらなんでも協力するから』
「うん、ありがとう。基くん」
電話を切って、司咲は転職情報誌をめくる。今の世の中にはたくさんの職種がある。今までやってきた事務だったり、サービス業と呼ばれるものだったり、製造業だったり。
どれが自分に合っているか、というよりはどの仕事をしたいか、というのを基準に司咲は頭を悩ませた。正直、やりたい事も特技もこれといってない。
しばらく考えて、ダメだ、と立ち上がった。鞄に転職情報誌と財布とスマホを入れて、家を出た。家の中だと、どうしても集中できない。
平日の今日はそんなに“人”はいないが、いつものように人ならざるものは賑わっている。目を合わせないようにと視線を彷徨わせながら移動する。
やっとたどり着いたのは大國魂神社。やはり神社の方が落ち着くし、心配もない。
「
小声でそう言って、ベンチに座ると転職情報誌を開いた。
《ほぉ？あんなに傷つけられておいて、懲りずにまた働くと》
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
