もしも、運命なら… (ページ13)

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一色ページ13

あの人も、他人には見えないものを見て、急に怯えだしたり話しだしたりする女なんて忘れてしまえばいいのに。これ以上、司咲の心が壊れる前に立ち去ってほしい。

それが今の願い。理想と現実はかけ離れているのだと、痛いほど理解している。理想は思い描くから理想なのだ。それが現実になることは決してあり得ない。

期待なんてすればするほど裏切られるのだから、最初から期待しなければいい。それが一番辛くないから。

「仕事探さなきゃ」

片付けた転職情報誌をまた広げた。正社員になるか、バイトになるかはまだ決まっていない。

司咲のアパートから帰宅中、つばさの頭の中には司咲の見せてくれた表情が永遠にリピートされていた。

驚いた顔、怯えた顔、苦しそうな顔、悲しそうな顔、嫌そうな顔、怒った顔、笑顔。

負の表情の方が多いけれど、もっと見たいと思ってしまった。彼女のいろんな表情が見てみたい。できれば、ポジティブな表情をもっと見たい。

夕日を見て微笑んだ彼女につばさは見惚れてしまっていた。もともと美人でどこか凛とした雰囲気のある人だな、と思っていたが笑うと目尻が下がり、ふと、かわいいな、と思ったのだ。

ツンケンしていたと思ったら、急に素直に謝ったり。かと思えばまたツンケンしだしたりする。

彼女の態度を振り返って、嫌われてはいなさそうだと結論付ける。嫌いなら、一切言葉なんて返ってこないし、こちらを気遣うような素振りも見せないだろう。連絡先交換を断られたのは少しショックだったけれど。

ただ、知りたいと思った。彼女が何に怯えていて、何に悲しんでいるのか。何をしたら喜ぶのか。何が好きで何が嫌いなのか。

つばさは彼女のことを何も知らない。名前と夕焼けが好きらしい、ということくらいしかまだ知らない。

それに、彼女はつばさのことを知らないらしい。俳優としてまだまだだが、同時に彼女にもつばさのことを知ってほしいと思う。

他のどんな表情よりも夕焼けを見た時のあの笑顔が脳裏から離れない。今度はつばさが彼女を笑顔にしたい。声を立てて笑っている姿も見てみたい。

まだ出会って間もないのに、つばさの頭の中が司咲一色に染め上げられた。