8話 新たなる武器。 ページ10
「で、覚えたい変化球って？」
「覚えたいというか、スライダーをウイニングショットにしたいと思ってて。」
「…高速スライダーか」
高速スライダー。
俺の持ち球である、通常のスライダーよりもストレートとの急速差が少ない球種。
高速スライダーを完璧にマスターした投手の球は、プロの選手でも「来るのがわかってても打てない」という程らしい。
「キャッチャーが構えた所に正確に投げ込む。それが俺の武器で、今まではそれだけで通用してたけど、今後はどうなるか分からない。
沢村みたく意表を突くようなプレーができる訳でもないし、降谷みたく相手を完封できるようなストレートを投げられる訳でもない。
その上で今の俺ができる事ってなると、限られてくると思うんだ。」
「なるほどな、それでウイニングショット、か」
御幸は顎に手を当て、何かを考え込むようにしている。
勿論、高速スライダーが投げられるようになれば、細かい投げ分けを得意とする俺の幅はさらに広がるし、球種があればある程、相手を混乱させることだってできる。いい事づくめだ。
ただ、なぜ御幸がここまで心配するのか。
大きな理由としては、俺は1年の時に、今と同じような状況で右肘を故障しかけたのだ。
あまり体が柔らかい方では無かった俺は、本来は体全体を使って投げるものを、新たな変化球を練習し始めた事により、体が開き、腕だけで投げてしまうフォームが癖づいてしまい、結果、故障予備軍へと繋がってしまった。
また同じような事が起こってしまった場合、主力メンバーである俺はチーム全体に迷惑をかける上、今後の選手生命にも影響を及ぼしてしまう事になる。
そのため、俺に変化球をマスターしてもらうのは大歓迎だが、果たして今じゃなきゃ行けないのだろうか？
夏大が近づく今、御幸が懸念しているのはそこなのだろう。
「…御幸、お前の言いたいことは分かってるつもりだ。
もしピッチングに影響が出始めてると思ったら、俺はお前の判断に従うよ。
勿論、無茶もしない。違和感を感じたらすぐに報告するって約束する。だから…」
俺も、皆の役に立ちたい。
チームの勝利に貢献したい。
…ただその気持ちだけなんだ。
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作者名：ぜんざい | 作成日時：2023年8月1日 21時
