12話 いざ習得。 ページ12
「っしゃ…！行くぞ御幸！」
「ねじ伏せて来いよ…！」
普段のストレートの握り方よりも少し、人差し指と中指を外側にずらしてボールを握り、投げ方はいつもと同じを意識する。
「(横に切るよう、に…ッ！！)」
強く振った右手を離れたボールは、ミットを目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。
「(曲がれ、！)」
少し横に切るようなイメージで投げることで、球速は保ちつつ、そこから外側へと軌道が変わるのが高速スライダー。
ズパンｯｯ!!!!、と勢いよく御幸の構えたミットに、ボールが収まった。が、
「…Aサン、俺ストレートのサインなんて出てないケド？」
「くそ！！ダメか〜！！！」
俺が投げた高速スライダー(仮)は、変化を遂げることなく、綺麗に真っ直ぐな軌道を描いて、御幸のミットへと到達したのだった。
そりゃ、手先は器用だって自負してるけど、俺は天才球児じゃないんだから1発で投げられる訳が無いんだよなあ〜…
「御幸！お前の位置から見て俺のフォーム、どうだった？」
「…30点。
スライダーを意識しすぎて腕の振りは弱まってるし、恐らくリリース時の指先の押し出しが甘い。
俺が受けたのはせいぜい球速の落ちたストレート…ってとこだな。
ま、気持ちちょっとは曲がってたかもしんねえけど(笑)」
たったの1球でほんと良く見えてんな…
癪だし、指摘の仕方がストレート過ぎるから頭にくる事はあるかもしれないけど、そういう時の御幸の言う事は大抵図星なのだ。
「腕の振りに指先の押し出し、ね。」
御幸の助言を頭にインプットし、今度はストレートの強い振りから、リリースの指先を意識してもう一度投げてみる。
「(ぉ、好感触…ッ？)」
先程よりもぐぐ、と外側に軌道を変えたボールは、そこまで球速も落ちてないような気がした。
「御幸ー！今のは！！？」
「(ただの1回でここまで軌道修正してくる奴があるかよ…)
ッ、いい感じだ！今の感覚、忘れない内にもう一球投げてこい！」
御幸の言葉に頷き、俺はもう一球投げ込む。
その後も少しずつ修正をして行きながら、球数が15を超えたところで、御幸からストップが掛かった。
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作者名：ぜんざい | 作成日時：2023年8月1日 21時
