脇役は悪魔化して魔入る。

50.“魔王の器” ページ50

「ならば、ヌシは己でなければAの結婚を許すのか？」

「…元より、私にそれを認めぬ権限などない」

「そうは言うがな、アスモデウス。己はヌシにあそこまでの剣幕で吼えられたのは初めてだ」

「…だからどうした」

「理屈や御託はいい。この際だから正直に口にしろ。──ヌシはAが好きなのか？」


はたしてそこを突き詰める意味が本当にあるのかと心配になってしまいますが、手当てが済んだ片手で入間くんが私の肩をぽんと叩きます。

ふと彼に目を向ければ、入間くんはふるふると頭を振りました。割り込むべきでないと諭され、私は二人のやり取りを見届けます。


「…それを答える前に、私もお前に問おう。お前は一体いつ、彼女に惚れた？」

「ふむ…さほど前の話ではない。己がAに惚れた切っ掛けは、彼女の精神魔術を受けながら彼女と相対したこと。心底美しいと思った。あれほど気高く勇ましく、そして優しい悪魔はそうはいまい。…Aには魔王の器があると、そう思ってしまったほどだ」

「……ふん。魔王を目指すお前の言葉とは思えんな」

「無論魔王の座を譲るつもりはない、魔王になるのは己だ。…だが、そう思ったときに、己はAが欲しくなった。Aが傍に居てくれるなら、己は長い時間を掛けてでも魔王にのし上がれると思った。だから躊躇うのはやめた。他の誰にもAを譲るわけにはいかん」

「…長い時間を掛けて、か。本気らしいな」

「当然だ。己はいつだって本気よ」


………真剣な顔で話をしているけれど内容が内容なのでどうにも集中できません。旦那が嫁の惚気をしているのを聞く嫁の気分です。あけすけなサブノックくんが相手で既に彼の好意を知っているから尚更です。誰も茶化しの声を上げないのが不思議なくらいです。


「まだ聞くか？Aの話ならいくらでも出来るぞ」

「もういい。いくらでも出来る話を聞くつもりはない」

「ふふん。なれば次はヌシの番だな」


まだ続くんですか？！

アズくんはちらと私に目を向け、どこか気まずそうな顔して視線をそらす。けれど決意を固めたようにきっと目つきを鋭くさせ、彼は口を開きました。


「…私も、彼女が好きだ。多分、彼女が私を認めてくれたその時から」


…一体何なんですか二人して…！

まさかアズくんまでそんなことを言い出すなんて、あまりにも居たたまれません。


だって今、クラスメイト全員聞いてるのに！

っていうかなんでカルエゴ先生は止めてくれないんですか？！！

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