【完結】ハナミズキ(実況者ポッキー)

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動けない
私はその場で、その形のまま
まるで時間が止まってしまったかのように固まって
どうして言ってしまったのかとか浮かれてしまったとか
そんな当然の疑問が頭の中をぐるぐるする

けど、彼はその瞬間までも優しいんだななんて思っていて
深く深く被せられたフード
それを掴んで、もっと深くかぶる様に引っ張る


「っ…ふ、」


だって、こうなるって分かってて、こうしたんでしょう？

そんな風に思い込んでしまいたかった
座っている私の太ももにぽたりと一粒
それはどんどん水気を帯びていく
私は唇を噛みしめて、その事実を隠すように顔を伏せた

本当に、浮かれていたんだ

仲良くなったって思ってた
おんなじ気持ちだったらいいな、そんな事だって考えた
彼の笑顔に、その瞳に映る私に好意をもっていてほしいなんて

伝えてしまったのは、溢れてしまったから、抑えられなかったから
あわよくばがないと言えば噓になるけど


だけど思い知らされた

同じ熱がこもっているような気がしたけど、そんなものは気のせいで
大雅は困っていた
それはあの切羽詰まった声を聞いてようやく自覚させられる
私と彼の気持ちの差


「ッ…」


気が付け頬は余す事なく濡れてしまっている
呼吸もうまくできなくて、まるで過呼吸みたいな
それはもう本当に豪快な泣き方で、自分自身に驚く

こんなに泣けるんだ
こんなに胸が苦しくて、こんなに辛くて


…こんなに好きになってたんだ


自覚すればする程に込み上げてきて涙が止まらない
どうしようもない
だけどどうにかしなくちゃいけない
1人になってしまった今、お客さんが来てしまったらまともに接客できないから
だから早く、早く


「〜っ…」


ぼろぼろ
拭っても、深呼吸してみても、何も意味をなさない
だけど仕事は仕事
冷静な思考と感情が全くかみ合ってくれなくて


「…だめだ」


一度シャッターをしめよう
どうしたって仕事が出来そうにないんだから
接客が出来ない事もそうだけど、何よりこんな顔誰にも見せられない

(落ち着くまで、ね)

そう自分に言い聞かせて震える手で机に手をついて、片足で立ち上がる
フードは被ったまま立てかけてある松葉杖の所まで何とか這って
そしてゆっくりと店前へ

何ともシュールな状況

フードを被って、片足骨折していて、松葉杖で、シャッターを下ろすためのフック棒を掴んで

「……」

人通りが少ない事に救われながら、私は片手で濡れた頬を無意味だと思いながらも拭って
浅く呼吸を繰り返す
その棒を持ったままシャッター前まで歩こうと

した、瞬間

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