【完結】約束4(ワタナベマホト)

１３７話 ページ1

揺蕩う意識の中で
私はふわふわした空間にいた
真っ白で、際限ない空間

心地がよくて眠ってしまいそうになる

だけど何だかそれはダメな気がして
行かなきゃ
でも、どこに？

わからない
見渡す限りに真っ白なそこは何もない

歩いてみる

変わらない、景色も、何もかも
向かうべき場所も目的も何もないのに歩いていく意味なんて見出せなくて
…やめようか
止まって、瞳を閉じて、ふわふわと心地よいここにとけてしまえば
それはそれはきっと楽で気持ちいいんだろうな

一歩、また一歩と
踏みしめるたびに足が固まって
鉛の様に重くなる

ズル…ズル…

引きずりながら、何も変わらない景色の中を歩いていく
額に汗して
息を乱して
私は一体何がしたいのか


わからないのに、止まらない


私は何をして
何でここにいて
どうして歩いているの


「ッ…！」


限界を無視して、重たい足を引きずって
息を切らして変化のない真っ白の空間を歩いていると

ふ、と

歪みを見つけた
この世界の、唯一の変化

それは煙の様にゆらゆらと空間を歪ませていて
私は目の前で足を止める

汗を拭う事も忘れて
何故だか鼓動が早くなって


息を飲んだ
そしてゆるり、手を伸ばす


「！！」


バチン！
稲妻のように電気が走った

その衝撃で広がったその歪みは
…歪みの先は

真っ黒で、針の様に突き刺さる強い風が吹き荒れている
飲み込まれたら最後、なんて


「……」


そんな風にしっかりと感じ取ったのに
私は自分の気持ちも理解しないまま

一歩、踏み出した


途端に、真っ白な空間は全ての姿を失って
黒に飲み込まれた

真っ黒な中、風が強くて
怖くてたまらない


だけど、


(…A、)



「っ！」


小さく小さく、聞こえてくる
それは確か


わたしの、なまえ？


見えたのは小さな男の子
お昼寝だろうか
眠っている隣の女の子をそう呼んで
頬に小さくキスを落としていた

微笑ましいその姿は、突き刺さる風に煙の様に掻き消されて


(…ねぇ、約束)


だけどその声は再び
今度は背後から聞こえてきて振り返る

先程の男の子がおもちゃの指輪を女の子に渡していた
2人ともにこにこ満面の笑顔で


(大きくなったら結婚しよう)


男の子がそう言うと、女の子の笑顔にまた花が咲く


(っうん！約束！)


ずっと一緒にいようね！

そう言って、またその姿は掻き消された
真っ暗な世界

怖い
だけど、それが


「……まほ、と…」


真実

大切な人を思い出す
そして私の周りには、その記憶の欠片が散らばる


「…行かなきゃ」


呼ばれている、

きっと、ずっと

その声を、探さなきゃ

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