第53話 ページ6
私自身へのメリット、考えたこともなかった。
今日言われた剣城の言葉を思い出す。
『…俺は、またお前にサッカーをやってほしい』
サッカーができる、というのはこの上ないメリットだ。本気でプレーできるのはもう少し後になってしまうかもしれないけれど。
亜風炉「自分がやりたいと思うならやった方がいいと思うし、今じゃなくていいと思うなら無理やり入部する必要も無い。そういう『わがまま』を、Aちゃんはもっと言った方がいいんじゃないかな」
A「わがまま…」
ふとゴッドエデンを作ったばかりの頃の記憶が蘇る。
千宮司の理想のためだけに生きていた日々、管理サッカーに必要のない感情を全て削ぎ落とされていた日々。
当たり前だが『わがまま』なんて許されない、自分の意思を持つことすら許されなかった。全ては千宮司の思うままに、従順に。
あの頃の私から少しは変われたと思っていたけど、人間そう簡単には変われないんだな。
あの頃と同じように無意識に自分の意志を無視していたことに気付き、苦笑する。
亜風炉「気付いてくれたみたいで良かったよ。君の人生なんだから、君自身が選ばなきゃ。ね？」
その後運ばれてきたケーキセットを口にすると、ふわりと優しい甘さが口の中に広がり、胸がすっと軽くなった気がした。
そして翌日の朝練。
鬼道「…そうか。しばらくは仮入部を続けて様子を見る、ということか」
A「はい、まだ選手かマネージャーかも決めてませんし」
鬼道「分かった、時間をかけてゆっくり考えるといい」
そう言うと、鬼道さんはグラウンドの方へ行った。
私が出した答えは『仮入部を続ける』。
深くかかわらず、ただ見守るのみ。これが今の私にとって一番最善だと思ったのだ。
たしかに剣城の言うようにフィフスじゃないサッカーをやりたい気持ちはある。特に剣城がチームメイトとなれば良い試合ができるだろう。革命の中で成長し続けている雷門の力もプレイヤーとして感じたい。
だけど、その気持ちを優先して革命に悪影響を引き起こしたら多分、私が一番後悔する。
革命が成功するまで自分のサッカーを後回しにしてもいい。
本当のサッカーをやるのはホーリーロードが終わってからでも遅くはない、そう思えたから。
朝から練習に打ち込む雷門サッカー部をベンチから見る。
自分もいつかここに混ざれることを楽しみにしながら。
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作者名：master_2 | 作成日時：2023年3月27日 1時
