第51話 ページ4
その見覚えのある2人とは、サッカー部顧問の音無春奈先生と、監督の鬼道有人さんだった。
そう、10年前私にサッカーを教えてくれた人だ。
春奈「この子がさっき言ってた仮入部の子？」
葵「はい！同じクラスの常野Aちゃんです」
鬼道「監督の鬼道有人だ」
春奈「顧問の音無春奈よ、よろしくね」
A「よ、よろしくお願いします……」
二人に正体がバレると必然的にサッカー経験者ということがばれ、芋づる式にシードであることがバレるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。
私は二人が自分のことを覚えていないことを祈りながらボソボソと挨拶をする。
すると春奈さんが何かに気が付いたように首をかしげ、口を開く。
春奈「あら？Aちゃん、どこかで会ったこと…」
A「ありませんっ！！」
春奈「そ、そう…？」
最悪の質問が投げかけられる前に食い気味に否定する。
春奈さんは相変わらず首をかしげたままだ。
少し怪しまれてしまったかもしれないが、余計な会話をして思い出される方が厄介だ。
ずっと黙り込んでいると鬼道さんが話を進めてくれる。
鬼道「とりあえずは見学を続けていてくれ。本入部の話は後日で構わない。じっくりと考えて決めるといい」
A「はい」
ありがとうございます、と頭を下げその場を去る。
見学を続けようとベンチに戻ってきたらグラウンドには誰もいなかった。
A「あれ…？」
剣城「全員部室に戻って休憩している」
唯一剣城はグラウンドに残っていたらしく、こちらに気付くと近づいてくる。
A「剣城は休憩しないの？」
剣城「お前に用があって残った」
私に用？
何か雷門に悪いことしたっけ、と考えたところで剣城はもう豪炎寺さんの真意を知っていることに気付く。
なおさら呼び止められるような用事が思いつかない。
そんな中、剣城から投げかけられた質問は意外なものだった。
剣城「お前、本入部はしないのか？」
A「本入部…？なんで？」
剣城「本入部した方が雷門の状況も把握しやすいし、それに…」
剣城にしては珍しく歯切れの悪い言葉に、顔を覗き込んで続きを尋ねる。
A「それに、何？」
剣城「…俺は、またお前にサッカーをやってほしい。フィフスのサッカーではなく、お前のサッカーを」
剣城が目を逸らしながら発した予想外の一言に、キョトンという擬音が似合うほど目を見開いてしまう。
A「…そっか、考えておくね」
それしか返せなかった。
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作者名：master_2 | 作成日時：2023年3月27日 1時
