1話 ページ1
生きるのが苦しかった。
だって、生きたって病室のベッドの上で何も出来ないから。
こんな体嫌いだ。
今すぐ消してしまいたい。
神様、どうか今すぐ私を＿＿＿＿
病室に響く電子音が小さくなっていくのが、朦朧とする意識の中でも分かってしまった。これでようやく楽になれるのか、と安心してしまう。
ストンと、暗闇の中に引きずり込まれる気がした。これが私の安らぎなのだと、だから誰も私を止めないで。
完全に意識が落ちた時、私は優しい光に包まれたような気がした。暖かくて、慈悲のあるそれは心を締め付けたような気がした。
「姉さん！」
突然耳に響いた青年の声に、意識が引き戻され静かに目を開けると、そこには見知らぬ緑色の髪と目を持つ男が前のめりになって立っていた。
初めて見たはずのその顔が妙に懐かしくなって、彼の顔にそっと手を当てる。ほんの少しやつれて見える彼は、目に涙を溜めていた。
そして、驚いたかと思えば安心したように私の手に手を重ねて小さく笑ったのだった。
私が周りを見渡すと、見慣れているようでそうでは無い病室が広がっている。唯一動かせる手で、体を起こそうとするも失敗した。
自分を起こすほどの筋力が無くなっているのだ。だからだろう。彼は、起きようとする私を静かに抱き起こした。
ふわりとくる彼の香りが鼻をくすぐる。何だか、凄く安心する香りだった。
「急に起き上がって、大丈夫？」
「…ええ、支えてくれてありがとう」
私を起き上がらせてくれた彼は誰なのだろうか。私は確かに死んで行ったはずなのに、ここに存在していて見知らぬひとに支えられている。
彼にまた視線を向けると、フラッシュバックのように記憶が流れ込んできた。自分の記憶ではないそれは、この体の持ち主のものなのだろう。
幼い少女の手を、隣の彼によく似た少年が握っていた。きっと、私たちが姉弟なのだと示しているのだろう。
そして、彼がいかに不幸な青年なのかを思い出させた。何だか申し訳なくなって、彼の頭を静かに撫でていく。
そのような事をされる歳ではないため、振り払われるかもと思ったが、彼はそれを黙って受け入れてくれた。すると、また泣き出しそうに顔を歪め始める。
記憶の中にあるように、優しく温もりのある声。
「もう、すぐ泣かないの。独りにしてごめんね…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» いつもありがとうございます。朝桐さんもお気をつけて！ (2022年12月24日 11時) (
レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 続編楽しみにしてます！年末年始、今年は特に寒いのでお体にお気をつけて！ (2022年12月23日 22時) (レス) @page50 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» 秋山さんのストーリーも楽しんで貰えて何よりです。次回の更新、楽しみにしていてくださると嬉しいです( *´꒳`*) (2022年10月19日 23時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - あ、秋山さーん？！？！？！ (2022年10月19日 23時) (レス) @page45 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - アルジュマさん» コメントありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいです(*^^*)キャストネームの方もありがとうございます。意味とかも調べながら検討したいと思います！ (2022年8月21日 22時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月詠乃朱 | 作成日時：2021年7月31日 14時
