懇篤 ページ39
後ろを振り向くがそこには誰もいない。嫌な予感がした、私はその場から急いで逃げ出す。いや、幾ら何でも早すぎやしないか…？
ザザッと左右に回り込まれる感覚、間違いない、これはオビさんだ。何処から抜け出そう、飛び出した瞬間彼の目の前とか笑えない。私は音のなった方へとは反対側の木々を走り抜ける。
肩に衝撃を感じ右肩を見ると、ただの折れた木の枝に引っかかて血が滲んだトレンチコートが見えた。良かった、彼かと思った。瞬間、真後ろから草を踏む音。
「みっけ」
今後ろを振り向くことは許されない。彼は本気で逃げろといった。本気で逃げる動物は、後ろの様子なんて気にしない。
それに彼が私に本気で逃げろと言った理由は、私に諦めをつかせるためだろう。引っ張り戻してくれると言った彼は、私が戻らざるを得ない状況を上手く作り出していたのだ。
だから私は今までにないくらい本気で走った。正直もう体の感覚はない。何処が頭で何処が足か不透明になっている。酸素も足りてない、だけど止まることは許されない、許したくない、私が。
「っは、あ！つかまえ、た！！」
「！！」
今度こそ肩に手が食い込む感覚、そのまま今までの進行方向とは逆に引っ張られ、慣性の法則を無視した動きに酔いそうになる。そして引き寄せられたかと思ったら耳元に彼の唇が寄せられた。
「もう、逃げないでいいよ」
その言葉に、私は足を漸く止めることが出来た。そのままその場に崩れ落ちる。長かったような、短かったような。お互いに吐く息は荒く、オビさんもしゃがみ込んだ。そんな私たちを照らすようにタイムリミットを知らせる太陽の光が森に差し込んだ。
「ふっ、ははっ、あははははっ！」
「！？」
突然糸が切れたように笑い出す彼。バンダナのような帽子を被っているのは久しぶりに見る。そのせいで少し表情は見えにくい。
「捕まっちゃったねえ」
「……そうですね」
ギリギリだったあ、と地べたに腰を下ろす彼は満足げな表情を浮かべていた。それとは対照に私は涙を零す。勿論、悲しいからじゃない、嬉しいに決まっている。捕まっちゃったなあ。
「アンタがさ、俺と結ばれることで消えるかもしれないって不安があるんだったら、俺が約束するよ」
「…何を、ですか」
「俺はアンタに惚れない、好きとも言わない。そういうことをはっきりとさせなきゃいいんだよね？」
「…！」
それは、優しい彼の一番残酷で、そして一番優しい選択だった。
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紗夜(プロフ) - 何回も読んで、もう文章覚えてきたけど、大好き。 (2020年1月3日 1時) (
レス) id: 17bb863b6a (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - Hinanoさん» こちらこそコメントありがとうございます！！！キュンキュンして頂けたでしょうか！？そう言って頂けて嬉しい限りです...ぜひとも続編もよろしくお願いします！ (2019年7月30日 13時) (レス) id: d10d29f4b8 (このIDを非表示/違反報告)
Hinano(プロフ) - 本当に本当に本当に素敵なお話でした…吹き出しちゃうくらい面白くて、でもきゅんきゅんして…素敵な時間をどうもありがとうございました！ (2018年6月25日 7時) (レス) id: 853b5b9878 (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - ちぎょさん» ちぎょさん、コメントありがとうございます！割と本気で泣きそうになりました！笑私も赤髪のキャラ皆好きで、個性を大切にしたいと思っていたので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。こちらこそ、沢山のお言葉にとても励まされました！リクエスト、待っています！笑 (2018年4月29日 19時) (レス) id: b6276197f5 (このIDを非表示/違反報告)
ちぎょ(プロフ) - すみませんふざけましたが本当に。直接伝えたいなあ、こんなに素晴らしいお話を書いてくれてありがとうございました！！続編のリクエスト、ちょっとじっくり考えます笑。長々とすみませんでした。 (2018年4月29日 13時) (レス) id: 2a62607b53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：フルリ | 作成日時：2018年4月16日 9時
