運命の人 ページ2
HR「Aー！Aー！」
学校へ行こうと家を出ると、タイミングよく名前を呼ぶ声に、振り向いた。
そこには、明るい茶髪を揺らしながら、手を振って駆け寄ってくる幼なじみの男子。
HR「待ってよ、A。一緒に行こうっていつも言ってんのに」
「高校生になってまで、恥ずかしいよ。温斗とは、付き合ってるわけでもないのにさ」
HR「だから、それもいつも言ってるよ。俺の彼女になってって」
この会話、もう何回目だろう。
幼稚園の頃からだから、多すぎて覚えてない。
そして、私は決められたセリフのように、いつも通りの言葉を口にする。
「ダメだよ、温斗とは繋がってないから。赤い糸」
自分の右手の小指を見る。
相変わらず、何も見えない。
私には、運命の相手を見つけあった同士の赤い糸が見えるらしい。
恋人同士だからといって、必ずしもその相手と繋がっているわけじゃない。
だから、本当にたまにしか見えない。
相手を見つければ、きっと自分の糸も見えるようになる。
ママとパパは、五年前に離婚した。
私、楯岡Aは、自分の赤い糸を見つけられないまま、高校生一年生になっていた。
HR「はぁー、Aのそのふり方、鉄板だよね」
温斗がガックリと肩を落としながら、隣を歩く。
「まだ信じてない？私には、ちゃんと見えてるんだよ」
うん。
改めて右手の小指を見ても、自分の糸は見えない。
HR「今さらAが嘘ついてるとか言わないけどさぁ、
それを信じるってことは、俺はAの運命の人じゃないってことじゃん」
「そうだね」
HR「少しは悩んでよ」
「だって、……見えるから」
どこにいるかも分からない、糸を繋ぐ人。
どんな人なんだろう。
この変な体質のせいで、初恋すらまだ経験がない。
それは、糸が繋がっていない人を好きになっても、無駄だと知っているから。
出逢ってしまったら、きっとそれは、最初で最後の恋になる。
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作者名：わたなべです。 | 作成日時：2023年10月4日 14時
