いつかの話。 ページ25
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私は『父』に連れられて本丸へやってきた。
父と言っても、血の繋がりがある訳ではない。
政府の役員が私の『父親』になったのだ。
今でも覚えているのは母がそれを自慢げに語っていたこと。
今日からお前の家がここになる。
『父』は私を見向きもせずに言い放ち、紫の髪の男の元に私を投げた。
こいつの面倒をお前がみてくれ。
一瞬たりとも私を見ずに襖を閉めた『父』
｢可哀想に｣
男に呟かれ、初めて私は可哀想な人なんだと認識した。
そういえば、母が蒸発した時も政府の人に可哀想に。と言われたことを思い出す。
主はあと少しなんだ。あと少し我慢してくれたらいいからね。
と、私のお世話係になった男は言った。
頭を撫で、母のように私を愛してくれた。
｢歳はいくつだい？｣
｢...あと少しで9だよ｣
｢......そうか。｣
少し残念そうに笑った彼の顔を今となっては思い出せない。
何年経ったか覚えてない。
突然父が消えた。
本丸の彼らは全員口を揃えて知らない。と言った。
政府は失踪扱いにして本丸を閉じようとした。
それに唯一抵抗したのは母のように愛してくれたあの刀だった。
散々説得され、遂に政府が折れた。
この者が元服するまで、あなたが親代わりになりなさい。
..................ただし条件がある____
彼は私を抱きしめた。
｢...どうしてもここから思い出せないんだよね。｣
｢その、男士も思い出せないのか？｣
｢うん。｣
アッサムティーを飲みながら、長義と昔話をした。
珍しく長義が知りたがってきたのも謎だったけど、特に隠すこともないと思い幼い頃の記憶と、そこからずっと政府で暮らしている話をしたら、悲しそうな顔で長義は聞いてきた。
｢その男士に会いたいと思ったことは？｣
｢あるけど、さ。何となくもう逢えないきがするんだよね。｣
何となく。
記憶の片隅で、彼がいなくなった気がしているそれだけ。
髪の色、雰囲気は覚えているがそれ以外は本当に何も思い出せないのだ。
｢きっと、案外近くにいたりするだろうね。｣
歪なクッキーを頬張った長義は、いつも通りの顔で笑った。
｢それと、君の『お父さん』についてなんだけど。｣
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作者名：名無し子 | 作成日時：2024年2月20日 1時
