先生のお気に入り

28、ナヤミゴト ページ28

　
　
　
藤ヶ谷のセクシュアリティーに関しては……



持って生まれた物や、乳幼児期からの親子関係の構築方法に影響されるかもしれないが、夢がきっかけとは言え、それを俺が決定付ける一因になったのだとしたら、責任が重過ぎる。



一生背負っていく、人格に関わる部分だ。



先生の言葉でポジティブに変われました、とか、世間には良く言う人がいるけれど、それすらも軽く聞こえてしまう。


　
一教師が生徒の人生……セクシュアリティーまでも左右するって、それよりずっと重い。



「先生と出会って、女を愛せなくなりました。」なんて。



F「午後から授業出るわ。

まだ少しフラフラしてるけど、薬効いてるし。

話聞いてくれてありがとう。」



大して体調が悪くもなくてもベッドで寝てたりするのに、今日は体調不良を圧してでも授業を受けに行くと言う。



保健室にはもういたくない、俺の顔を見ていたくないと、暗に言われてる気がした。



藤ヶ谷は保健室を出て行く時、出がけにチラリと、書道の道具の入った棚に目を走らせたようだった。



棚のガラス越しに藤ヶ谷がニヤリと笑ったのには、全く気付いていなかった。



すっかり冷えたコンビニ弁当を再び温めながら、「食えるようなら、お前もちゃんと昼飯食えよ。お大事に。」と、出て行く背中に声だけかけてやった。



K「何か不味そうだなあ。

腹減ってるから食うけどさ。」



再温めじゃ、生姜焼きも御飯もカピカピじゃねえの？



K「藤ヶ谷のせいだ……」



その日の午後は、藤ヶ谷の事ばかり考えていて、生姜焼き弁当が美味いのか不味いのか、さっぱりわからなかった。

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