41、願い(K) ページ41
北山side
藤ヶ谷は穏やかに微笑んでいたが、突然身を強ばらせると、口元を暗赤色に染めた。
ヤバいな、大量に吐血した。
ホイールチェアじゃダメだ。
ストレッチャーを頼んだが待ちきれず、口内を掻き出して藤ヶ谷を抱き上げた。
俺の腕の中で一瞬目を開け、焦点が俺の目にしっかりと合った。
F「先輩、僕は……僕は、どう……見える？」
K「綺麗だよ。
お前は初めて会った時と変わらず綺麗だ。」
F「ホント……？」
K「嘘なんか言わねえよ。
愛してる。
お前の頭から爪の先まで、全て。」
F「良かった……。」
そう言うと瞼を閉じた。
F「もう会うのは、これで……最後に……」
バカ！何言ってんだよ！
俺の職業何だと思ってんの？
お前がどんな姿になったって嫌うわけないだろ！？
痩せこけて骨と皮だけになっても、腹水でパンパンでも、お前んとこ行くかんな。
何ならお前の事、誰にも診させねえよ。
でも……。
俺はいつものおねだりに対する答えと同じく「良いよ。」と言った。
お前のおねだりには、笑って「良いよ。」って答える事にしてんだ。
藤ヶ谷は満足気な笑みを浮かべて目を閉じていたが、再び口の端からドッと血を溢れさせた。
その日から藤ヶ谷は目を覚まさなかった。
もう会わないなんて藤ヶ谷の願いなど聞き入れず、俺は藤ヶ谷の病室に何度も何度も通った。
でも「良いよ。」と言った事で、ずっと眠り続けていた藤ヶ谷にとっては願いが叶ったも同然だった。
「綺麗な僕を……
覚えていて下さい。」
いつか藤ヶ谷が言っていた通り、俺は病室に行く度藤ヶ谷の体を拭き髪を梳かして、綺麗な藤ヶ谷を抱き締めた。
誰の視線も憚らず、自分の肩書きを忘れ、最期の一瞬まで抱き締めた。
藤ヶ谷が怖がらないように。
幸せな夢を見ながら逝けるように。
「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな
この歌の意味は…… 」
あの退屈な古文の授業が思い出される。
そうだ、俺は……
「藤ヶ谷」をまだ諦めてない。
今ひとたび、その横顔に俺は出会いたい。
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kyumapi(プロフ) - まいまいさん» 意外と命に纏わるお話をいくつも書いていますね。無駄に悲しい展開になっているとお感じの方もいるかとは思うのですが、結末から話を組み立てる事が多いので、誰かが命を失う事が前提となってしまいます。美しいお話と言って頂けて幸せです。ありがとうございます。 (2020年9月26日 18時) (
レス) id: 52d20d0833 (このIDを非表示/違反報告)
まいまい(プロフ) - 切なくて、美しいお話ですね…高校時代がまさかの展開になって、この先どうなるんだろうと思ってから、一つも展開が読めませんでした。2人が折角再会出来たのに…ってショックでしたが、また新しい命として再会出来るなんて…とても好きなお話になりました。 (2020年9月17日 7時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
kyumapi(プロフ) - まあさん» まあ様〜コメ感激! きゅまぴは一気読みの読者様多いのですが、完結後一気読みでどっぷり浸って頂く方が伝えたい事が伝わる気がしています。過去作品掘り出して下さる読者様大歓迎です(*´ω｀*) ふざけた作品に時々激シリアスな作品混じってて驚かせてしまうかも?です。 (2016年4月27日 11時) (レス) id: 28d794b9d0 (このIDを非表示/違反報告)
まあ(プロフ) - 今更だけど、この作品初読みで、泣きました。 (2016年4月26日 12時) (レス) id: 3c04f1bc36 (このIDを非表示/違反報告)
kyumapi(プロフ) - 蜜柑さん» ひゃー( ☆∀☆)ありがとうございます。読者様のお好みが分かれる系統だと承知で書いた物、読んで下さって恐縮&感激です! シリアスで暗くもあり軽くSF要素も含んでとっ散らかってる感は否めないです。読者様がハッピーエンドと受け取って下されば嬉しいです。 (2016年1月11日 20時) (レス) id: b7f24202ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kyumapi
| 作成日時：2015年11月24日 17時
