自縄自縛ー中島敦 ページ35
人はどんな時に絶対なる愛を感じるのか。そんな問いに私は独占欲、束縛などをする人間こそ、絶対的な愛を持っていると考え、そして確信しているのだ。
「優希さん」
名前を呼ばれると、それが例え自分を呼んでいなくとも気になってしまう。まだ朝が訪れていない夜、丑三つ時はとっくに過ぎた時間に私は目を覚ました。
首には違和感を覚え、見えるのは天井と綺麗な目と儚いような白い髪色。そして綺麗な雫。
「ぁ、つ・・し・・・く、ん」
目覚めたばかりの身体。声が濁って掠れて、はっきりと彼の名前を呼んであげられない。
「僕はっ・・・。」
泣きながら、手に力を入れてくる中島敦は私の愛おしい人。
「ま、た・・ない、てる・・の」
彼はいつも不安で、本当は独占欲があるのにそれを隠し、束縛したいと思っているのに、行動に移せず溜め込んでしまっている。それを知って、言った事がある。
敦くんになら別に何をされても離れていかない。と、けれど彼は優しいから、行動に移せないのだ。
「やっぱり、嫌です・・本当はっ、優希さんと・・・ずっと一緒に居たいのに・・でも、僕は、そんな自分勝手な事で優希さんを縛り付けたくないっ!」
でも、溜め込んでいてもいつかは爆発してしまうのだ。それが今だったのだろう。
彼の綺麗な瞳から溢れ、流れ落ちる涙はどんな宝石よりも美しい。
「あつしくん」
掠れた声ではなくなってもまだ声は濁っている。
「優希さん・・僕はっ」
「敦くん」
彼の頭の後頭部を手で押して、自分の胸におさえた。
「・・・優希さん?」
首から手は離れた。敦くんはどうしたらいいのか迷っているようで目を泳がせている。
「今は、寝ようか。朝起きたら敦くんが傍にいるなんて、これ以上幸せな朝の迎え方はないよ。敦くん、私は嬉しいんだよ。やっと君の言葉が聞けた気がするの。いいんだよ、自由にして・・敦くんがしたいことしたって怒りはしないんだから」
「優希さん」
彼は私から離れ、そっと見下ろしてくる虎が見えた。
「おいで」
その言葉が彼の中を虎を起こしてしまったのか、彼はまるで獲物を捕らえたような目で、そして飢えていたのか、私の唇に喰らい付く。
最初は本当に獲物を食べるかのようなもので、少ししてから虎は獲物の味を確かめるように舐め始めた。
「優希さん・・・」
虎の息が荒々しくなった。虎は目を鋭く光らせ、そして獲物を逃がさぬようにその手で掴み、またその口で、牙で、舌で、私を貪り喰らったのだ。
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作者名:翼 | 作成日時:2016年6月25日 8時