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拾肆*太陽:雨=太鼓鐘:X ページ19

そうか、彼はそうして生き残ってきたんだ。

前任に折られかけて、逆に殺そうと試みることで傷を浅く保ったのだ。

では、殺さなかったのは?

審神者の命を奪うことで、彼らにはどんなペナルティが与えられるんだろう?

強制刀解?闇堕ち?

どちらにせよ、いいものではない。

「私は死んでない。正当防衛はするけど、過剰防衛はしたくない」

「過剰?馬鹿言え。次は確実に殺られるかもしれないんだぜ?」

「今の光忠さんからは、そんなこと想像できない」

負けずと睨みをきかせて見据えるが、彼は揺れもしない。

「…あんた、なんでこの本丸に居座ってんだ?」

唐突に、目を細めて問いかけてきた。

今、彼は何を見て、何を思ってるのだろう。

「私がここに居たいと望んだから」

そう口にして、自分でも「あれ?」と思った。

前まで、刀達を救いたいだの、真実を知りたいだの言っていたはず。

「何で…そう思った?」

「それは分からない…でも、私は確かにここに残りたい」

しばらく、沈黙が続いた。

やがて彼は手を放すと、ポツリと呟いた。

「殺す度胸も、逃げる度胸もないのかよ……」

「え…?」

哀しげな瞳を揺らしながら、泣き出しそうな顔をする少年。

その顔を見た途端、私の頭の中で太陽が黒雲に隠れるイメージが描かれた。

まるで彼の心を見失ったかのように――…。

派手な少年は踵(キビス)を返して部屋を出て行った。

「貞ちゃん…!」

光忠さんが後を追おうとするが、黒人(?)の彼に肩を掴まれて引き止められる。

アイコンタクトをとって、彼も去って行った。

残ったのは、未だに私の顔を見ない光忠さんと、失ったものを見つめる私だけ。

気まずそうに振り返ると、彼は曖昧に笑った。

「ごめんね、毒を盛ったりして…。あの後、部屋に着いて我に返ったんだ」

光忠さんは、一つ一つ話していった。

罪悪感で彼らを頼ったこと。

それが間違いだったと気付いたこと。

あの少年が太鼓鐘貞宗で、過去に前任から逆らった罰だと酷い虐待を受けたこと。

「許してあげて。あの子は、敵も味方も分からなくなってるんだ」

敵も味方も?なら、彼は今独りだというのか。

だから、簡単に味方を刀解しろと言ってきたのか。

ああそうか…「だから」か。

今やっと、太陽を隠した黒雲から雨が降ってきた。

私はその雨を、傘で防ぐこともせずに、ただただ瞳を閉じて受けた。

雨はこんなにも冷たい――…。

拾伍*何しに此処へ…太鼓鐘side→←拾参*光忠の刀解



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まゆ - 完結おめでとうございます^_^面白かったです^_^これからも、お身体に気をつけて頑張って下さい^_^ (2020年3月18日 0時) (レス) id: 161c6e3e4c (このIDを非表示/違反報告)
みゆ(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (2018年10月27日 12時) (レス) id: 866317dc4d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヒタリ | 作成日時:2018年10月4日 1時

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