参拾伍＊粟田口の長兄 ページ36
「大将、俺っちは――…」
顔を上げて何かを言いかけた薬研。
不思議に思ってその顔を覗くと、彼は私の背後に目を見張っていた。
動揺…それが1番合っていたかもしれない。
瞳がぐらぐらと揺れている。
「薬研？どうしたの――……」
振り返って、私も言いかけた。
私の後ろにいた刀に吸い込まれるかのように、語尾が消えていった。
「い、ち兄……――」
その刀は、彼ら―薬研達―の兄。
そして、粟田口派のラスボスともいえる。
「薬研…？どうして、泣いているのかな……」
「い、いち兄…これには理由が」
「その方は……審神者、で間違いないね？」
上半身を起こしながら言ういち兄(仮)に、何故か怯え出す薬研。
薬研達を一瞥(ｲﾁﾍﾞﾂ)して、改めて彼を見ると、ものの見事に目が合った。
「あ…えっと、初めまして」
私の声に目を鋭くさせ、微かに殺気を放った。
「………果たして、"初対面"ですかな？」
いえ、多分きっと絶対初対面ではないですね。
もしも、彼が【あの時】に私がはっきりと見えていたならば。
「いえ…一度、顔は見合わせましたね」
緊張しながらもそう答えると、張り詰めていた空気が一気に柔らかくなった。
「そうですか…。それは良かった」
彼はそっと微笑むと、着物を整えて布団の上で正座した。
片手を胸に当てて、上品に――。
「私は一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
爽やかな笑顔で自己紹介された。
ま、眩しい！！浄化されそうだっ！！
キラキラとロイヤルフラッシュを浴びせられ、思わず目を強く瞑った。
「あの…何故、目を瞑られているのですか？」
「お気になさらず……少し眩しすぎたので」
一期さんは、「はあ…」と納得しかねる言葉を漏らした。
参拾陸＊打ち子でやり直し→←参拾肆＊品定めこと大将定め…薬研side
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作者名：ヒタリ | 作成日時：2018年8月28日 23時
