夕立ちに手を叩け (ページ6)

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# ページ6

※ 流血表現有

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「 A…？」

爪楊枝に刺さったままの林檎。
でも、その爪楊枝を持った手は力無く垂れる。
カタン、と明るい音を静かな病室に立てて
林檎は落ちた。

「う"っ」

鈍く濁った声が目の前の彼女から紡ぎだされる。
咳き込む背中を摩ってやると
小さい息と少し黒みがかかった血を吐いた。

「 A！」

「 ○○、く」

ナースコール。
ナースコールはどこだ。
早く。早く。早く。早く！

やっとの思いで見つけて押したボタン。
しかし、無反応。

本来なら、向こうから緊急の意を知らせる
言葉を投げてくるはずなのに
音沙汰がない。

故障だろうか？こんな時に？

「くそ、受付なら」

( 受付、受付は、確か1階 )

行かなくては。
行って、助けてくれって言わないと。

そう、思って病室を出ようとしたとき
後ろからいつも聞いていた愛しい君の声が聞こえた。

「あの、ね」

「コール…押したって、無駄なの」

「 ……は？」

汗が眉間から流れるのを感じた。
しかし拭いたいだとか、深呼吸とか
もう、どうでもよかった。

「先生達、にね
ナースコールが…押されても、来ないでって言ったの」

「押されたときには……2人で最期をって」

さいご、と言われて分からない俺ではない。
ああ、そうか、君は今逝くつもりなのか。