Masquerade 6

case 252 ページ12

.



手持ち花火が少なくなってきた頃、

宏が置き型の噴出花火を設置し始めた。









火を着けて、宏がこちらに走ってくる。









その背後で上がり始める火柱。









!?









その光景は、一瞬で時を巻き戻した。









高校生の頃、まだ無名だった充とした

夏の終わりの花火。









今みたいに、

こちらへ向かってくる充の背後の火柱。









後ろの花火がキラキラと光って、

まるで充が光ってるみたいに見えて……









そうだ……忘れてた……。









私は……あの瞬間、









充に









恋をした。









ー充先輩、すごい綺麗ですね♪ー









ーホント、綺麗だな……なぁAちゃん、

10年後も一緒に俺と花火しよっか？ー









他愛のない子供の約束。









あの瞬間の笑顔に

私は恋をしたんだ……。









夏は終わってしまっているけど……

あれから14年後の花火……。









奇しくも、今夜は……









.









きっと充との最後の夜。









.









ドラマみたいだけど……





花火で始まって、花火で終わる恋……





そんな恋があったっていい。









だって、もうきっとあんな恋は出来ない。









比べるわけじゃないけど、

それでも10代の恋愛と今とでは熱量が違う。









"恋が全て"みたいな学生時代。









時が流れて、仕事に趣味に

色んなものに時間も情熱も注いで、

恋にかけられる割合は

あの頃よりもずっと少なくなった。









だから……もう、あんな恋は出来ない。









見つめる中で、火柱は小さくなって……

シュッと小さな音を立てて消えた。









静寂と薄暗さが辺りを包んで。









その瞬間、

横にいた宏の腕の中に閉じ込められた。









.









.









「煙……目に沁みたか……？」









.









.









私の頬は濡れていた。









私……泣いてるの……？

case 253→←case 251

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す