ICE DOLL 3

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夜のルーティンを全て終えて、ゆっくりと自宅で温かいお茶を飲みながら見るともなくテレビを見ていた。
時勢の波が、色んなものを押し流していく。
蔓延する感染症に収録も満足に出来ず、夜の帳が降りたばかりのゴールデンタイムと呼ばれる時間にも関わらず過去の人気ドラマが再放送されている。

緊急事態宣言の為に仕事も通常通りとはいかず、何となく心の何処かで気持ちが不安定で。
失って初めて気が付くこともある。
毎年のように行われていたライブは決して当たり前ではなかったのだと。

今年の春は、驚くほど早かった。
美しく花が咲き誇る季節から、新緑が目に優しい季節まで。
きっと梅雨も夏も、恐らくは瞬く間に過ぎていくのだろう。
2020年と呼ばれる一年は驚くほどのスピードで過ぎ去り、そして誰の心にも忘れられないものになるはずだ。



失われた日常─────……という名の元に。



人はいつも、その時には気が付かない。
その手の中にある間は、それに気が付かない。
例えば、空気。
普段の生活の中で、己の周りにある空気という存在がなければ生きていけないということを意識はしない。
人間とは、往々にしてそういうものだ。


Prrrrr Prrrrr Prrrrr


流れるテレビを見るともなく見ながら思案に耽る中で、それを断ち切るように身近に置いていた携帯が鳴動する。

この生活の中で、唯一のプラス要因。
不規則な生活のはずのあの人から決まった時間に連絡があること。
あの人も家にいる時間が長くなり、定期的にこの時間帯に連絡がくる。


「はい。」


【A？お疲れ。】


機械越しに響く声は甘く穏やかで。
あの冬のコンサートを境に、劇的に変化した関係。


「宏光、お疲れ様。」


知らなかった宏光。
身体だけの関係を続けていた期間はそれなりに長いけれど、関係が変わってからの宏光は、驚くほどに甘かった。
この人は、内側に入れた相手にはこれほどに。


【今日、何してた？】


「んと、今日は、去年のライブのDVD観てた。」


【FREE HUGS？】


「うん。」


【何してんの。どうせ藤ヶ谷のとこばっか巻き戻して見てたんだろ。】


「えー……うん。」


【そこは嘘でも違うって言えよ。】


軽口が続いて。
拗ねたような口振りも、ただの言葉遊びのようなもので。
流れる空気は穏やかだ。

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