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その広い部屋にあるのは中央に配置されたテーブルと二脚の椅子。
そして北側にくつろぐ様にか、柔らかそうなソファとローテーブルが壁に添って置かれている。
宏光は、そこにいた。
「遅かったな。」
黒いジャケット姿の宏光がソファから立ち上がり、ゆっくりと部屋の入り口で立ち尽くす私に近付いてくる。
コツコツコツと、白い床に宏光の革靴が音を立てる。
っ……
普段の宏光は基本的にカジュアルな服装が多く、ファンなら誰でも知ってる誕生日に太輔に貰ったデニムにカットソーやTシャツを合わせているような格好をしていることが多かった。
そんな宏光が、綺麗めな細身のボトムにジャケットを羽織って男ぶりを二割増しで上げている姿に私は声も出なかった。
「ん?どうした?」
「あ、……うん、いや……何でもない……」
ダメだ。
直視出来ない。
豪奢な部屋で、見慣れたカジュアルな洋装でもキラキラのアイドル衣装でもない、ビシッとキメた宏光。
そんな宏光を見ていられなくて、私は視線を逸らした。
何で?
私相手に、そんな格好をしてるの?
淡い期待が胸を踊らせる。
そういうことには慣れていない。
私はいつだって、心を揺らさない、望まないように宏光に接してきた。
望めば、相手の全てが欲しくなってしまう。
そんなことはダメだと、ずっと自分に言い聞かせてきたのに。
ふわりと、頬に触れる指先。
ぐいっ、と背けた顔を戻されて、真っ正面から視線が合ってしまう。
「っ、……」
「俺に、会いたかったんじゃねぇの?」
その瞳に意地悪な色を宿して、宏光が私を真っ直ぐ見つめた。
カッと熱が上がる。
待って。
何これ。
会いたかったのは事実だけれど、こんな状況なんて想像もしていなかった。
こんな。
こんなのまるで。
本命の恋人にするような別世界だ。
「こっち。」
宏光が優しく私の手を握って、部屋の中央に配置されたテーブルへと誘う。
大きなテーブルには北側に寄って二脚の椅子が並べられて、その椅子を先程の従業員の男性が引いてくれていた。
そこに私が座るまで、宏光は手を握ったままで。
まるでエスコートするかのように。
私を座らせた宏光が、隣の椅子にジャケットの裾を払うように座った。
正面はガラスの外にバルコニーが見えて、その向こうにイルミネーションの光が幻想的な空気を作り出していた。
これを見せるために、向かい合って座るのではなく北側に寄せて椅子が並べられているんだろう。
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とーか(プロフ) - にかみつばさん» 言葉にしてくださることが、また更に嬉しいです♪私は、みっくんにも少し狡くて不器用なところがあるだろうなって実は思ってまして…Masqueradeの宏があまりにも格好よすぎたので、違う彼を描いてみたかったのも本音です(笑)コメントありがとうございました♪ (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさーん♪一つ一つに丁寧にコメントくださってありがとうございますー♪そういう率直な感想とても嬉しいです(*´∀`)♪もちろん、好みだと言ってくださるコメントも嬉しいのですが、自分の中の彼は自分が感じるものなので色んな彼がいて当たり前で、それを (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 1人の人を一途に愛する、優しい優しい北山くんで、読んで良かったなと思いました。シリーズで続きを書いて下さりありがとうございました。またとーかさんの作品を読めることを楽しみにしています。長々と失礼いたしました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 兄組話、Masqueradeの北山さんが好きでこちらも読ませて頂きました。正直私の想像する北山さんと違いすぎてイメージや感情移入しずらく途中で断念してしまってました。でもとーかさんの作品だしどうしても気になりラストまで読ませて貰いました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - ふみさん» お姉……。ああ、もう他の人とは違う目線でニヤニヤしてるのが目に浮かぶわぁ……┐(´д`)┌やめれ。生暖かい目で見んなーっ!!!(笑) (2019年9月9日 20時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とーか | 作成日時:2019年8月24日 12時