17.偶然 ページ17
「此処、いいですか?」
「君の様な可憐な子なら悦んで」
「はあ…有難うございます。太宰治さん」
「…驚いたねぇ。Aちゃん、だったっけ」
「ええ。りゅー君から聞いたんですか?」
「いんや、彼は過去の事は一切話さなかった。過去に呟いてたのを聞いただけさ」
とある喫茶店の一角で初めて飲んだ檸檬茶は、少し苦くて酸っぱくて砂糖をいれる。
目の前には珈琲に砂糖を入れて掻き回している悪魔…太宰治が優雅に座っている。
「偶然って凄いですね。貴方に会いたいなって歩いたら、貴方が見えたんです」
「落としにかかっているのかい?随分と上手だ。君にとって私は敵だろう?」
「りゅー君を連れて行ってしまった事…ですか。 それに対してはまあ、不満も文句もありますけど…彼の本質は変わってませんし」
彼の双眸が丸くなった。
「本気で云っているのかい?彼は変わった。私の影響も有るけれど一番は…周りの環境かねぇ?」
「朱に交われば赤くなる…」
「そういうこと」
ストローをくるくると廻して砂糖を溶かす。まだ苦いや。
「彼は…変わってませんよ」
彼は未だ優しいよ。
「へぇ…何故そう言えるんだい?」
「りゅー君は確かに人を殺めるようになりました。が、方法がまだ甘いんです。特に…拷問」
「嗚呼、成る程ね…」
思い当たる節があったらしい。
数日前に、Drが持ってきた芥川龍之介の資料。そこに写った亡骸は頸と身体がすっぱりと別れていた。 拷問死体、殲滅後のもの…全ての亡骸がこの状態。
この時に違和感が出来た。拷問って、体の節々を痛くするんだよね?これじゃあ直ぐに死んじゃって情報を聞けないんじゃ…
「確かに、あの子は未だ甘い。即死は痛みを伴わないからね。嗚呼、私も死ぬならそれがいいな。それか可憐な女性との心中。
…あ、Aちゃん一緒に心中しないかい?」
「嫌です」
「ちぇっ」
ふられちゃった〜と、のの字を書く目の前の男に溜息をひとつ。
「ところで太宰さん。貴方に頼み事をしたいのですが…」
「私、自分に利益の無いことはしないよ」
足を組み換え両肘を着いた彼の雰囲気は、拳銃を構えてりゅー君と交渉し、隠れていた私を観察していたあの日と同じように鋭くて、軽く既視感を覚えた。
その日とは今でも嫌でも鮮明に思い出せる。私の人生が変わった日だ。
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玉槻七海 - 中原三日月さん» 閲覧に感想、ありがとうございます!更新頑張ります! (2019年2月16日 15時) (レス) id: 0aa4805012 (このIDを非表示/違反報告)
中原三日月(プロフ) - 運命とは、いかに残酷なのでしょうね……と考えさせられました。更新頑張ってください!応援してます! (2019年2月13日 5時) (レス) id: f8510eae2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉槻 | 作成日時:2018年12月29日 15時