りんご型爆弾大事件【1話】 ページ10
セミの鳴き声で私は目を覚ました。十境都は8月に入り、気温は30度を越える日が続いている。学生たちは休みを満喫し、大人たちは汗水流して働いている。耳を澄ませば聞こえてくる子どもの声。夏の風物詩ともいえるそれを聞いていれば、自分の学生時代を思い出す大人は多いだろう。私もその一人だが、今なお子どもの気持ちを忘れていない大人が身近にいる。
「泉ちゃ〜ん、たすけて〜〜」
リビングから情けない声が聞こえてきた。おそらく例の大人だろう。
「ちょっと待て」
ひとまず、身なりを整えて、リビングへ向かうと、そこにいたのは
「泉ちゃん、またやっちゃった……」
部屋をりんごジュースで汚している大人だった。
「今月に入って何回目ですか」
「3回ぐらい?」
「8回です!!なにサバ読んでるんですか、しっかりしてくださいよ公平」
「次から気を付ける……たぶん」
私はテーブルの下から常備してある雑巾を取りだし、ジュースで汚れたテーブルを拭き始めた。同じく私の横で片付けをしているこの大人は佐藤公平だ。一応成人した立派な大人だが、りんごジュースが好物という変わった男だ。しかも職は探偵という。
「いやでも、こんな端っこにジュースがあるのがいけないんだ。誰だ、こんなところにジュースを置いたのは!」
「あなたでしょ……」
「あっ、そうでした」
変な文句をつけている彼は普通の人ではない。少し(だいぶ)子どもらしいのは二重人格のせいだ。普段はおバカ全開だが、探偵モードになると、すごく頭が切れるのだ。普段の彼は公くん、推理中は平ちゃんと呼びわけられている。
―ピンポーン―
公平を見ると、雑巾でテーブルを拭いているように見えるが、実は汚している一方だ。とりあえず彼をここから遠ざけよう。
「公平、出てください」
「あいよ」
公平を部屋から追い出して、私はびしょびしょに濡れたカーペットをどうしようかと頭を抱えた。
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作者名:商社へGO(しょーごしゃん) | 作成日時:2017年8月29日 19時