この世界はいつだって 7

ふたりしらべ。　side N ページ40

ふたりしらべ。
　
　



　
　
　




冬の朝のように、凛と澄んだ空気。
絶えず頬を撫でる波の音。
目の前に広がる海。
煌びやかな青色の水。

空は星明かりひとつないのに、水底に光源でもあるのか、水自体が光っているのか。
宝石のような静かな海が、どこを見渡しても水平線の先まで広がっている。
世界の最果てはこんな感じなのかな。



なんで俺は此処にいるんだろうなあ、なんて。
足元に打ち寄せる波を見ながら考える。
四畳半の小さな浜辺。
そのうち沈むとか言わねーよな。


「海…、なのかな？これは。」


実物を見るのは初めて…、いや、コレも実物じゃあ無いか。


予定通りに事が進んでいたら、俺はとっくに家へ帰っているはずだ。
まだ寝ぼけてる大野さんの眼前に、チェックポイント(役場)の証拠を突き付けてさ。
ほら見ろ、あんたが寝てる間に俺は町まで行って帰ってきたぞ。ついでにあんたが作ったスタンプ見つけてきたぞ。驚いたか。驚いたなら長時間の昼寝はやめろ。身体に悪いから。
…なんて。

想像みたいにいきやしない。
人生そんなにうまくいくもんじゃない。
知ってたけど。


「こうくるかー。」


恐らくこの状況は、オブラートに包んで言えば“ちょっと寄り道中”で。
はっきり言ってしまえば、“器に引っ張られた”状態で。
もっとどストレートに言えば、“死体がある場所に戻ってきた”感じなんだろう。


ナントカっていう木の生け垣を越えたところまでは覚えてる。
確か玄関を出て、花壇を越えても何ともなかったから、案外いけちゃうんじゃね？なんて油断したんだ。
あの木、割と最近植えたって聞いたけど、いつの間にか境界みたいになってたらしい。
家から近いし…ってか庭の中だし。俺が消えたのバレバレだわ。



あー、嫌だ。
想定してた「こうなったら嫌だCase」のうちのひとつが当たっちゃった。
どうせ当たるんならさ、普通に道に迷うとか、視えないだろと高をくくってた俺の存在がバレてマニアな奴らが家に押し掛ける、とかの方がまだマシだった。蹴散らしてやるつもりだった。


「でもまあ、まだ良い方なんすかね。」


思っていた景色と違う。
俺の死体は地底湖の底にあるはず。
こんな眩しいほどの世界ではなくて、もっと精神削がれるような陰鬱な場所に連れてこられるもんだと思っていた。

意識ははっきりしてるし、肩を回してみても…うん、ちゃんと身体も動く。
動けるんなら、まだ行き詰まっちゃいないよ。

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