第五話 仲直りの宴 ページ36
勘違いかと思ったが、彼は間違いなく私を見ていた。
それから、談話室の出口の方向を目で指し示し、すべてお見通しと言わんばかりにウインクを飛ばした。
彼の行動にピンときた私は、急いで立ち上がった。
「どうしたの？ A」
セシルたちが、不思議そうに私を見てくる。
「トムのところに行ってくる」
「リドルのところに？」
「うん。謝りたいことがあるの」
出口に向かう途中、私はマルシベールに近寄って、
「ありがとう。マルシベール」
突然私が話しかけたからか、周りの男の子たちは不思議そうに首を傾げていた。いや、エイブリーだけは気がついているようだった。
「さあ、何のことかな？」
マルシベールはわざとらしく肩をすくめてみせた。
私は急いで談話室を出ると、走ってトムを追いかけた。
トムの背中が見えてくると、私は走るスピードを落とした。
追いかけてきたのは良いけど、何て話しかけたら良いのかわからない。
そのまましばらく後ろを歩いていたが、急にトムが振り返ったので、歩みを止めてしまう。
「え……」
トムは、後ろをついてきていたのが、私だと思わなかったのか、目を丸くして驚いていた。
「えーと、こんばんはトム」
「あ、ああ」
とりあえず挨拶をしたが、気まずい沈黙が流れてしまう。
こういう時、どう話を切り出したら良いんだろう。こんな時に限って口下手な自分に、私は落胆した。それでも何とか言葉を切り出そうとした私より早く、トムが私の名前を呼んだ。
「A、この前はごめん」
この前と言うには、随分と経ってしまったが、トムも色々と思い悩んでいたらしい。それは、自信無そうに俯いている様子からでも、ハッキリとわかるくらいだった。
「ううん。私の方こそごめんなさい。トムは私のことを心配してくれていただけなのに、私が酷いことを言っちゃったから」
トムは驚いたように顔を上げた。
「君は何も悪くないよ」
「いいえ。それは違うわ。私はトムを傷つけたもの。お互い様よ」
トムはしばらく視線をさ迷わせていたが、不安げに私の目を見つめて、
「あんなことがあった今でも、僕と友だちでいてくれる？」
私はその言葉に、胸が温かくなった。実は、とても不安だった。もうトムは許してくれないんじゃないっかって。でも、彼は私と友だちでいたいと思っている。私はその一点にひどく
「ええ、もちろん。あなたの方こそ、私と友だちでいてくれる？」
「ああ」
トムは安心したように、だけど泣きそうな顔で笑った。
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2020年2月24日 16時
