検索窓
今日:5 hit、昨日:8 hit、合計:48,808 hit

【32】126 ページ28

(駿佑side)



朝……、いや昼前か。


アパートの一室で目覚めた俺は

ひとつ、空腹だけを覚えた。



ボロアパートの2階。

カーテンを開けると少しの光が入ってくる。



俺は欠伸をすると

ボサボサの髪を掻き上げた。







いつになったら落ちるのか

待ち遠しくなるほど、錆でボロボロの階段を


音を立てながら重い足取りで降りる。



1階の隅に設置されている集合ポストには

近所のスーパーやピザ屋のチラシが

雑に突っ込まれ、顔を出していた。



自分の部屋番号の箱から

それらを引っ張り出すと、


一旦部屋に置きに行くために

体の向きを変える。



駿佑「……、、ぁ…」



そんな俺の目線は、



「あ、。」



アパートの敷地の外でしゃがみこむ

知らない男の人にぶつかった。



「こんにちは!」



駿佑「あ…、こんにちは。」



その人は俺を見て、

少し照れたように笑った。



大通りから脇道を入った

奥まった所に立つこんなアパートに


来てくれる客があるような人間は住んでいない。



何処の誰で、何をしているのか。

俺は不審に思いながらも

そんな彼に、無意識に話しかけていた。



駿佑「なに、見てるんですか…?」



そんな簡単な問に


その人は目をきらりと輝かせた。

よくぞ聞いてくれた!と顔が言う。



「来て来て!」



手招きをされた事に何故か嬉しくなって、

子どものような笑顔の彼に

俺は子どものように駆け寄った。



「あ!踏んでまう!」



ピシッと手で制されて動きを止める。



足元に広がるピンク色……




駿佑「これですか?」


「うん!これ!これ見ててん。」


駿佑「これ…」


「ホトケノザ!かわええやろ〜?」



雑草…と開きかけた口を慌てて噤むと


あ、今雑草って言おうとしたやろ、と


その人が笑った。



「君、名前は?」


駿佑「道枝です。道枝駿佑。」


「ほな、“みっちー”やな!」


駿佑「みっちー。笑」




手にピザのチラシを持っていても

もう空腹は忘れていた。




駿佑「お兄さんは?」


「俺は藤原和也!」


駿佑「ほな、和也くん。」



和也「おぉ!嬉しいわぁ!」




どこからか溢れた幸福が、

いつの間にか俺を満たしていた。




和也「色んなところで見るけど、

ここのは一段と綺麗やね。」


駿佑「ほんまですか?」


和也「おん、なんか活き活きしとる。」



そうして俺と和也くんは


しばらくの間ホトケノザを見つめていた。



127→←125



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (118 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
277人がお気に入り
設定タグ:オメガバース
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

まつだいら(プロフ) - Rioさん» コメントありがとうございます!また落ち着いたら、色々と書いていきたいです!読んでくださりありがとございました!✨ (2022年8月19日 16時) (レス) id: 086f901055 (このIDを非表示/違反報告)
Rio(プロフ) - 主さんのお話大好きです!!ぜひ裏設定も読みたいです!! (2022年8月18日 16時) (レス) @page45 id: 9d6c92ab72 (このIDを非表示/違反報告)
まつだいら(プロフ) - 莉里さん» ありがとうございます!オメガバは需要が少ないと思っていましたが沢山の方に読んで頂けて本当に嬉しかったです!また戻ってこれた際は是非、よろしくお願いします! (2022年8月13日 6時) (レス) id: 086f901055 (このIDを非表示/違反報告)
莉里(プロフ) - 完結おめでとうございます。オメガ設定は数少ないので、とても好きな作者さん、作品のお一人です。いつか戻ってきてくださることを楽しみにしています。 (2022年8月12日 21時) (レス) @page45 id: fd324481c2 (このIDを非表示/違反報告)
まつだいら(プロフ) - ayさん» ありがとうございます!読んでいただけて、温かいコメントも頂けて本当に嬉しいです!もう少しで完結ですので最後までお付き合いお願いします! (2022年7月31日 0時) (レス) id: 086f901055 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:まつだいら | 作成日時:2022年7月19日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。