誘拐犯取り扱い説明書【青×桃】

10.我が儘言うこと ページ10

桃side



「望、もう時間」

「…やだ」

「んー？仕事せなあかんの、わかるやろ？」

「、嫌やの、まだやもん、」



嫌嫌、と、首を振って、
流星に抱きつく力を強めると、
流星は静かに頭を撫でてくれて。

俺はこうやって、
常に誰かとくっついておきたいねん。



正直に言うと流星やなくてもいいから、
誰かの人肌に触れておきたい。

でも、ここには、
俺以外流星しかおらんから。



「じゃあ望ここ来てええから、一回のいて？」

「ん…」



そう言われて、
向かいあって抱きついとった腕をほどいて、
流星の足の間にストン、と収まる。



そのまま後ろから抱き締められるように、
流星がマウスをカチカチしだして。

俺はうずくまるように、
ぐっと極端な猫背の状態になって、
パソコンの画面を見てみる。



ぼーっ、としながら、
もぞもぞ体を動かして。



やっぱり、流星の匂いは安心する。

でも、全く同じ匂いやのに、
自分の中で恐怖心もあって。

これも自分の気持ちがわからんくなっとる、
ひとつの原因やと思うねん。



怖いのに、安心する。
落ち着くのに、無意識に怯える。

そんな矛盾した状態で常におるから、
脳が訳わからんくなっとるんやろ。



ここに連れて来られてすぐの時は、
もっと酷い状態やった。



ぼんやりした意識の中起きたら、
知らんところにおって。

あ、薬切れたんや、なんて言われて、
それだけで俺はパニック状態。



どういうこと、と、
あんまり回らん頭で考えるけど、
何も考えはまとまらんくて。



後から流星に聞いたら、
薬がめちゃくちゃ強いやつやったから、
脳がすぐには働かんかったんやと思う、って。



ここどこ、って聞いたら、
誘拐したで、なんて言われて、
あのときはほんまに怖かった。



こんなに甘やかしてもらえるなんて、
そんなこと思ってなかったし。

ずっと我が儘を言って良いなんて、
考えもせんかったもん。



まぁ、内容は限られとるけど、
それでも普通の誘拐犯よりかは、
ずいぶん優しいんちゃう？

他の人知らんからわからんけど。






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