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翌日のことだ
独歩君から話を聞いたのだろう一二三君に、恋人がいるのかと勘繰られたのをなんとか回避した
「恋人ではないよ」
と自分で口にしておいて胸が痛む
恋人ではない
その事実が
この先彼とどう顔を合わせたらよいのだろう
体目的
それで納得できるのだろうか
いつまでもそんな関係になってしまうのではないか
彼をこの身で留めておくことなんてできるのか
飽きられたら終わり、なんて
否、流された時点で私は、もう_
「神宮寺先生、お客様がいらしているそうですが…」
気まずそうに看護師が寂雷に声をかける
寂雷の渋い顔に遠慮しているらしい
寂雷は私情の思案から離れ、応対しようとして、首を傾げる
おかしいな
今日は来客の予定はなかったはずだけれど
…一二三君、という可能性も無きにしも非ず、だが
「今日は来客の予定はなかったはずなのですが…」
「それが、この間お世話になった患者さんだそうで、確かに退院された方で」
「その方のお名前は?」
時たま、こういった風に退院された患者さんが訪れることがある
だからその日も患者さんが元気な顔を見せに来てくれただけだと
そう、思っていたのだ
だが
「_水城理津さんです」
目を見開き徐に立ち上がる
椅子がガシャンと音を立て後ろへ下がった
看護師が驚いて肩を震わす
はっとして、少しばかり冷静さを取り戻す
「ああ、すみません。確かに、担当した患者さんです。…少しお話してきますね、すぐ戻りますから」
否が応でも早口になる
どうして彼がここに
しかも患者ではなく、恐らく個人的に
嬉しいはずなのに、足取りは妙に重い
嫌い嫌いと言う割に、一体どうしたのだろうか
これでプロポーズくらいしてくれると、
なんて阿呆らしいことを考えないと今すぐにでも逃げてしまいたくなるのだ
待合室は診察待ちの患者でごった返している
受付に話を伺おうと近づく
「すみません、来客と聞いて_」
言いかけた瞬間、視界の端に捉えた
なぜその日に限ってそう見えたのか
クリーム色の美しい髪
細められた瞼から覗く深海の目
妖艶に弧を描く唇
どこか哀愁を漂わせ
彼はそこにいた
目を離せない
離した瞬間、消えてしまいそうで怖い
そうならないように抱きしめたい
しかし
抱きしめた瞬間壊れてしまいそうで
あの日割ってしまった、あの真白い皿を思い出す
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無月 - 2024年から失礼します。1年前にヒプノシスマイクにはまり(遅い)、寂雷先生を好きになったので読んでみましたが、2人の心情表現がリアルすぎて本人に話を聞いて書いた実話かと思ってしまうほどでした。画面も顔もびちょびちょです。ありがとうございました。 (1月11日 10時) (レス) @page42 id: 1dba4fa267 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - ぴみゃ@ごりらーさん» ありがとうございます。作中では経過時間を長めに取り、主人公と先生の中の深まりをじっくり書くことができました。僕も二人の距離感、書いていてとてもグッときます。改めて、完結までありがとうございました (2019年5月8日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - 遅くなりましたが完結おめでとうございます!主人公くんが、凄い好きで、話も深く大好きな作品で、更新が凄く楽しみでした。先生と主人公くんの会話やお互いへの思いにとても癒されました (2019年5月7日 19時) (レス) id: a355684bde (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 鉄壁炭酸カルシウムさん» 主人公は元々こんなツンデレ属性ではなかったのですがどういうわけかこんな猫系に…。わあ、嬉しいコメントありがとうございます。機会がありましたら今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 迷い犬さん» 返信遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。二人がお付き合いした後のお話でしたがなんだかんだ書いていて一番楽しかったです。最後までありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2019年3月31日 0時