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彼をどうすればいいのか、神宮寺寂雷という天才さえ頭を悩ませる。
彼の言葉が察する通りなら、家出したというわけではないのだろうが、それが尚更問題を大きくしている。
どちらにせよ、ここに放置していては危ないだろう。薄着だし、夜が更ければさらに寒くなる。きっと夜を越すことは難しい。
寂雷は極めて冷静にそう判断し、彼の頬に触れる。
酷く冷たい。まるで石像に触れているようだ。
青紫色の唇。血の気の引いた白い肌。どうあがいても哀れという感情が隠し切れないが、それを誤魔化すように薄く微笑む。
「おいで。」
雨風のしのげる車内に向かおうと、彼が立ち上がることを確認してゆっくりと歩き出す。
たまに後ろを確認するが足取りが心もとない。しかし、手を貸して逆に怯えられたら、と迷っているうちに車についてしまった。
「さ、乗って。」
彼は開かれた車の後部座席をじっと見つめてから、気怠そうに乗り込んだ。
その姿は酷く無防備で、先程の発言といい、よほど劣悪な環境にいたことを物語っている。
鞄から聴診器を取り出し、自らも後部座席に乗り込む。彼は大して驚きも動揺も表さず、寂雷が聴診器を耳に取り付ける姿をぼうっと眺めていた。
「少し、失礼するね。」
彼の服を捲り上げ、心音を聞こうとしたのだが____
「__っ…。」
心もとない車の灯でもはっきりと確認できる。いや、今確認できるものは本当にごく一部なのだろう。
痩せ細った体に無数の痣。
腹周りにはそれと同じかそれ以上の数の切り傷。
さらには火傷の痕まである。
これは、一体何なんだ…。
大した処置も施されていないが故に化膿し、ライトの当たり具合からさらにその不気味さを際立たせていた。
一体どうしたらこうなるのか、と言いかけた口を噤んだ。
聞かずともかな、答えは先程彼が口にしていた通り。
沸々とした怒りと動揺を悟られないように聴診器を耳に当てる。一律の鼓動。生きているはずなのに、彼はどこか死んでいる。
聴診器を外し、これからどうしようかと思案した時、唐突に体のバランスが崩れ、後ろの扉にもたれかかる。
否、崩されたのだ。
暗がりではわからなかった彼の琥珀のような瞳が、寂雷を侵食するように見つめていた。
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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時