5: 神宮寺寂雷の世界 ページ6
珍しく帰りが遅くなったことには理由がある。
次のバトルの打ち合わせと称して一二三が企画した食事会の為だった。
独歩が仕事の為数分遅れたことを除けば、ほどほどに楽しい食事となった。独歩も多少息抜きができただろうと寂雷としてもほっとしている。
いい加減病気ではない来院は注意しなくては、と頭の隅で考えながら。
「…おや。」
夜から明日の朝にかけて雨が降る。
ポツリ、ポツリと天気予報通り雨が降り始めた。
寂雷はあらかじめ所持していた折りたたみ傘を開き、また家路を急ぐ。
雨のせいだろうか。
車までの距離が妙に長く感じる。
病院から飲食店_といっても居酒屋_まであまり遠くないため、健康のためにも少しくらい歩こうかと考えたことが災いしたか。車は病院で持ち主を待っている。
視界の端に、それを見つけた。
体を抱き寄せうずくまるような形で横たわっているのは、暗がりでは判断しづらいが人間に見える。たとえ人間だったとして、放置しても誰も困らないだろう。こんな夜中に裏路地にいる人間などろくなものではないことは、どこの地域にいる人間でも知っていることだ。
特に、貧富の差が激しいこのご時世では。
しかし、神宮寺寂雷という人物の信念は、彼に放置という道を選ばせなかった。
すっかり辺りは濡れており、アスファルトが黒く変色している。
傘が2本入らないくらいの暗く狭い路地に入ると、雨の匂いに交じって生ゴミのような腐臭が一層強くなり、一瞬、顔をしかめたが構わず歩いた。
近づいてみれば、それはまだ年端も行かない青年に見えた。
10代後半、といったところだろうか。
「こんなところでなにをしているんだい。」
彼にできる限り目線を合わせようと膝を折る。長い前髪から覗く瞳は完全に光を失っており、辛うじて焦点が合っているくらいだ。
瀕死の子犬の方がまだましだろうと、不謹慎ながらも思ってしまう。
諦めることすら諦めてしまったかのような双眸はまさしく、死んでいると形容するに相応しい。
口を開かない彼に寂雷は首をかしげる。彼はじっと寂雷の顔を見つめていたが、半ば痙攣するように唇が動く。
「__口で1回2万、ナカなら追加で1万。ホテルなら料金はそっち持ち。」
恐らく、口にし過ぎてもはやテンプレートと化してしまったのであろうその言葉を呑み込むことは、天才医師の彼でも難しいらしかった。
128人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時