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「彼は貴女の欲望を満たすための道具ではない。貴女は、彼の純粋な気持ちを利用し、貪り喰らい、弄んだ。許されることではない。監獄の中で己の罪を悔い改めなさい。」
その声は、それでも収まり切れていない憤怒を無理やり抑えているような、今までの寂雷では考えられないような口調。
もはや目に見える場所にまでパトカーが近づいているのがはっきりわかり、彼女はその場にへたり込んだ。
雪は心配しながら彼女に駆け寄る。
「母さん…。」
その細い肩に触れようとした瞬間、その手は払われる。
「触らないで、小汚い！！アンタのせいよ…アンタの…。」
その顔は絶望に染まり、そのすべてが雪に向けられていた。
そして、一言。
「アンタなんて、産まなきゃよかった。」
雪は、その言葉で総てが絶望に塗りつぶされた。
どうしてこうなったんだ…？
俺は、母さんに喜んでほしかっただけなのに。
「どうして…。」
雪の目から雫が落ちる。
パトカーから降りてきた数人の人が母を引き上げ、歩かせる。
辺りは騒然となり、雑踏が行きかう。すでに野次馬がなんだなんだと集まり始め、母はそれらに囲まれるようにしてパトカーへ向かっていく。
雪はその人だかりに突っ込もうとしたが＿＿阻まれた。
「離せ、離せ！！母さんが…！！かあさ…う、ぁ…母さん！！」
「雪君。こうすることが、君のお母さんにとっての最善なんだ…。」
もはや聞き慣れた声が、処刑人のように思えた。
遠ざかっていく中、母は最後にこちらを向いた。
「アンタのせいよ。」
様々な声に紛れているのに、そう聞こえたような気がしたのは、彼の妄想だったのだろうか。
雪は、寂雷の腕の中で声を殺して泣いていた。
寂雷の胸を力なく叩きながら。
「…雪君。」
「どうして。」
「どうして…？」
「おれは、あなたを、信じていたのに…。」
その悲痛な眼差しに、寂雷の心はギリギリと痛んだ。
覚悟はしていたはずなのに。
こんなに心が痛むのは。
寂雷の脳裏に、あの時の雪の笑顔が風のように巡る。
しかし、時計の針は左には進まない。
あの笑顔も、家のなかの温かい時間も
もう、戻らない。
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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (
レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Last | 作成日時：2018年11月24日 20時
