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「こら、逃げてはいけないよ。」
がっしりと腕を掴まれ位置を固定される。
眉間にこれ以上ないほど皺をよせるが寂雷に注意され渋々座った。
ブォという音は口から風の出る音。ドライヤーとよばれるもの。
寂雷は雪の長い髪を乾かそうとするが、雪はドライヤーが苦手な様子だった。猫のように体をよじるため寂雷はいい加減縛り付けようかとも考えたほどである。
「風邪を引いたら大変だ。ほら、大丈夫だから。」
ぎゅうっと目を閉じ、口を一の字に引き結んでいる姿は少し可愛らしい。
それにしても、どうしてそんなに嫌がるのだろう。なにか、嫌な思い出でもあるのだろうか。
嫌な思い出、と彼を見ても、嫌の範疇を超えている可能性があるため油断できない。だからといってやめる気もない。
しばらく優しく髪に触れていると慣れてきたのか、落ち着いて身を任せるようになった。
ほっと一息ついてから雪の顔を覗いてみると、温かい風が心地よくなってきたのか目を閉じてリラックスしているようだった。
「終わったよ。」
ドライヤーの電源を切ると、彼のごわごわして明らかに不衛生だった髪は子犬のようなふわふわの毛並みになっていた。シャンプーの匂いが香る。
彼自身驚いているのか、物珍しそうに自分で自分の髪を触っている。
「昼食、できてるよ。食べられそうかな？」
寂雷が微笑むと雪は目を伏せて頷く。
少しずつ、慣れているのかもしれないと寂雷は内心喜んでいた。
昨晩の体調も考慮してあまり重くない野菜中心のお粥のようなものにしたのだけれど、彼は胃に入れば何でもいいとか思っていそうだなあ。
雪は鍋に入っている粥を寂雷が取り分けてから、蓮華でそれはもうちまちまと食べていた。苦手なのかと思ったが、一口食べてから本当に小さく「おいしい。」と呟いていた辺りそういうわけではないらしい。
寂雷も微笑みつつ自分に取り分けた分を口に入れる。我ながら自信作であった。
「普段はなにを食べているんだい？」
雪は顔を上げ、しばらく考えるそぶりをすると、蓮華を小皿において口を開く。
「コンビニ…？」
「こういった食事は…。」
質問の意味が分からなかったようで雪は首を傾ける。
「……これ、一日、ぶん。明日も…生きて、いける。」
神へ祈りをささげるがごとくスケールの大きな独り言であった。
周囲から見れば何を言っているんだと思われることだが彼にとっては死活問題なのだ。
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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (
レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Last | 作成日時：2018年11月24日 20時
