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20: 神宮寺寂雷の世界 ページ21

雪を風呂に入れている間、寂雷は昼食の準備をしていた。
 本当は昼休みに一度家に帰ってきて行うはずだったそれは、雪が_左馬刻と共に_病院の近くにいたため少しばかり遅れている。
 しかし結局午後休となったため時間には余裕がある。

 雪は寂雷が用意した朝食に手を付けていなかった。
 しかし、妙なことに書き置きのメモが消えている。


一体何処に行ったんだろう。


 不審に思いつつ朝食を下げると、テーブルの下のあるものに目が行った。ペンである。


…朝、確かに急いではいたけど、こんなところに置いたっけ?いや、これは置いたというより落としたといった方が…。


 自分の余裕のなさに呆れてため息が出る、が。ふと思いつき_自分でもどうしてそうしたのかは謎であるが_ごみ箱を覗いた。


「…あった。」


 それは確かに朝急ぎつつ書いたメモ。にしてもどうしてわざわざ捨てたのか。
 一瞬ネガティブな方向に考えてしまったが、それはメモを拾ったことによって払拭される。


 朝食は食べ終わったらシンクへ。お昼頃に一度帰宅します。
体調が優れないようなら無理して食べなくてもいいからね。 神宮寺寂雷


 確かに自分が書いたメモである。注目したのはその裏。
 表と比べてみればお世辞にも上手とは言い難い文字。

 白い紙に書かれた、たった5文字。




 ありがとう




 と。

 ただそれだけで、今までの全てが報われるような気がした。


 緩む表情。温かい胸。

 それと同時に、必ず救い出すという決意。




 そういえば、と。寂雷は着替えを届けるのを忘れていたことに気づく。昼食の準備を中断し、風呂場に向かう。
 扉を数回ノックして押し開く、が。


「……?」


 首をかしげる雪は言わずもがな、全裸。
 首にかけたタオルで髪を拭いている。今までの環境での慣れなのか、裸を見られたからといって動じる様子はなく、むしろ、何?と言わんばかりの表情。実際は無言だが。

 一方寂雷は、というと、


「あ………ごめん。」


 年甲斐もなく焦っていた。


配慮が足りなかったことは認めよう。
しかし、何も言われないというのも、それはそれで…。


「……あ、の…?」


 心配そうに上目遣いで首をかしげる雪__全裸で。


「あ、そうだ。着替え。渡すの忘れていたんだ。うん。」




 極めて冷静に見えるだろう。大人の余裕に見えるだろう。
 しかし内心滅茶苦茶焦っており、扉を閉めた後、しばらく顔が赤かったことは内緒。

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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時

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