17: 彼の世界 ページ18
ぞっとする声だった。
今までと違う。
怖い。
先程の狼に睨まれても抱かなかった感情がなぜ寂雷相手だとこうも簡単に、そして強烈に沸き上がってくるのか彼自身理解ができない。
母さんに怒られる時の感情に似ている。
あの家にいる時と違い白衣を着ている相手に腕を引かれている途中、もはや彼に逃げようなんて感情はなく、ただただ恐怖に支配されていた。
連れてこられたのはそこそこ大きい病院。昼のためか診察のため来院した患者はほとんどおらず、見栄えのいい緑とその近くに備え付けられたベンチに座らせられる。
「で、なぜ君がここに?」
「……。」
恐ろしくて相手の顔を見られない。その様子が気に入らなかったのか、相手の手が頬に触れ、無理やり顔を合わせられる。
その顔は怒っているわけではなさそうだが、眉をハの字に寄せ、しかし初めに会った時_行為に及ぼうとして止められた時_のものとは違う類だと察した。
「…あ……。」
わからない。何を考えているのか理解できない。でも__胸の中心が、痛い。
相手の顔は雪の心を抉るには十分すぎて、彼はどうしたらいいのかわからなくなる。ただ、この顔を見続けるのは酷く辛いと判断した。
「……ごめん…なさい。」
まるで懺悔室で己の罪を告白するように、口から零れ出る謝罪の言葉。
「どうして…。」
そう呟いて口を噤む相手にまた体の奥が底冷えするような悪寒が走る。
神様からの断罪を待っているのか。雪は相手から目を離せない。
「どうしても、お金が、必要で…あ、あの……ごめんなさい。」
何か言いたげな様子の相手だが、深く目を閉じ、慎重に話し始める。
「ごめんね。怖がらせたいわけではないんだ。けれど、君が何故そこまでお金に拘るのかを知りたいんだ。」
「それ、は……。」
言ったら、嫌な目でみられる…?
そんなことを考え、口を閉ざし、また開き。それを数度繰り返してやっと言葉にする。
「そういう、約束、だから…。」
「約束…?」
神妙にうなずく。尋問を受けているように縮こまりながら。
「それは、誰と?」
「父さんと…母さん。」
「どんな約束なのかな。」
「……。」
「妹が、学校にいくために…お金を、はらうこと。」
「…そう。妹さんは、高校生?」
問われて、首を捻る。もうずっと会っていない。けれど、たしか…。
「15歳…?」
その答えに相手が目を見開いた。
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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時