16: 神宮寺寂雷の世界 ページ17
一体どういう状況なのか。
寂雷は事態が読めず混乱した。なぜヨコハマディビジョンの碧棺左馬刻がここ新宿にいるのか。なぜ雪が病院近くまで来ているのか。そしてなぜか胸倉を捻じり上げられている雪。
とりあえず不穏な空気であることは察した。
「止めないか、左馬刻君。」
左馬刻も驚いたようでぱっと雪の胸倉を離す。
雪は咳き込んだ後、数歩後ろに下がった。
「んだよセンセイ……知り合いかよ?」
ちらりと左馬刻が雪を睨む。雪はひるんだ様子はなくただその場に立っているだけ。
しかし寂雷が雪を見ると、目が合った後_気まずそうに_目をそらした。その姿に寂雷は若干の苛立ちを覚える。
「…そうだね。その子は私の患者なんだ。もしかして、彼がなにか気に障ることをしたのかい?」
左馬刻はしばらく雪をじっと見ていたが、先程と同じような様子に小さく舌打ちをする。
「いーよ。んな死んだ目で謝られたってスッキリしねえからな。」
「ありがとう。…それで?なぜ君が新宿にいるんだい?」
すると左馬刻は「ああ。」と思い出したという風で煙草を取り出し火をつける。
基本的に機嫌の悪そうな彼だが、チームを組んでいただけあってその表情の機微から察するに良い話では無いようだ。いや、彼が他のディビジョンを訪れる理由が良い話であるはずがないのだが。
「うちの組のモンが数人、問題起こして逃げててな。何人かはもう捕まえたんだが、一人こっちに逃げてるって情報が入ってよ。」
「なるほど。」
捕まえた人たちはどうしたのか、ということは聞かない方がいいだろう。
苦虫を噛み潰したような表情に寂雷の顔も神妙になる。
「ま、アンタに会ったのは偶々だが…くれぐれも気をつけろってことだ。」
「肝に銘じておくよ。」
ぶっきらぼうにそう言うと左馬刻は駅に向かって歩いて行く。と、急に半身になって振り返った。
「自分の患者なら逃げねえようちゃんと病室にでも突っ込んどけよ。」
「…ああ。」
それきり彼が振り返ることはなかったが、見透かされた気分になり寂雷は渋面を浮かべた。
__そして、気づかれないように逃げ出そうと腰を引いた患者の腕を掴む。
「どこに行こうとしているんだい。」
「……。」
雪は再度目をそらして腕を掴まれたまま後ろに下がろうとする。しかし寂雷がそれを許さない。
「来なさい。」
その声はかつてないほど冷徹なものだった。
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Last(プロフ) - カナリアさん» ありがとうございます。僕自身も今作の主人公はお気に入りです。これからも堪能していただければと思います。 (2018年12月28日 12時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
カナリア(プロフ) - 主人公くんが可哀想で可愛くて個人的にダイレクトでした…… (2018年12月27日 22時) (レス) id: 90bd7d6cd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年11月24日 20時