【ヒプマイ】 35℃、カタルシス。 【男主】

35 ページ36

早朝の風に煙が流されていった

澄んだ空気

中指と人差し指に挟まれた煙草




「ふ…」




煙を吐き出し、電話をかける

相手は3コール目に憂鬱そうな声で応じた





「ごめん、寝てた？」

「いえ、問題ありませんよ。それより、どうしたんです。こんな早くに」





苦笑交じりにベランダの柵に体を預け、首を傾け景色を見下ろす





「例の件ですか」

「うん、そう」

「相変わらず仕事が早いですね。詳しくお願いします」





理津は窓越しに奥のベッドで寝ている女を視認して話し始める





「女の子経由で薬売ってる奴の写真と連絡先、ゲットしたよ」

「警察でも手に入れられていないのに、どうやって」

「替え玉で仲介してたホームレスに金ちらつかせたら簡単にゲロッた」





電話の向こうで小さくため息が聞こえた
恐らく手際に呆れているのだろう



「ああそう、今横浜にいるんだけどさ、データ直接渡したいから、銃兄迎えに来てよ」

「…わかりました」

「こっちも忙しくてさ、これ以上は難しいかもしんない…ちょっとした邪魔も入るしね」



邪魔、という言葉に銃兎が反応する




「必要なら黙らせますけど？」

「っはは、できるもんならそうしてほしいけどね。多分銃兄でも無理だよ」




理津の脳裏にうざったい長髪が過る
と、ベッドがもぞもぞと動き、こちらを見る目に笑いかける


「ま、コッチにいる限りは問題ないし気にしなくていいよ」

「一体誰のことを言っているんです、理津」


寝起きの声が理津の名前を呼ぶ

理津は煙草の火を捻じ消し、首を回す




「ごめん一旦切る。ああ、迎えはいつもの場所に7時半でヨロシク」

「ちょっと理津＿」




銃兎の声を無視して通話を切る

携帯電話を尻ポケットに潜め、微笑みながら室内に戻った





「ごめんね、起こしちゃった？」



「ああ、煙草ね。吸ってるところ見られちゃったな」



「そうかな？ありがとう。あんまりこういう姿は女の子に見せないんだけどね」



「…君は特別だよ」





軋みを上げるスプリング

柔和に微笑む





「あぁ、そう、君のお友達の話なんだ」



「うん、ナイショ。約束する」



「ふふ…うん、うん。そうなんだぁ……そうだね、君は悪くないよ」





女の髪を弄りながら、逃避の手伝い

底へ底へ落としていく



完全に酔わせた後

悪魔の笑みを浮かべ






「大好き、愛してる」






その一言で、何人が地獄へ落とされたか

蒼玉に陶酔する彼女は知らない

36→←34

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す