我執_1 ページ10
指の先から体温が遠のく。
もったりとした胃袋から不快感がせり上がって、鳩尾と食道を行き来している。
「飲めますか?」
空いている隣に座らずに、入間さんがカップを差し出した。
湯気ののぼる中身をちらりと見る。無色透明、白湯のようだ。
『……。』
すみません。と言おうとするが、言葉が出ない。
緩慢な動作で受け取る俺にきっと苛立ってるに違いない。
じわりじわり。
指先を温める温度にだんだん冷静になってくるが、油断するとすぐに吐き気がこみ上げる。
ほら、また。
「Aさん」
ぎっと首に爪を立てた俺の手を咎める声。
勝手にさせてほしい。
触られたところが、痒くて気持ち悪くてたまらない。
「何があったか、話せますか?」
言ってしまおうか。という気が不思議なくらい起こらない。
代わりに、やめてもいいですよ。という声がぐるぐる。
『…なにもないです』
嘘です。
…って流石にわかるよな。
何もないわけないって。
入間さんは、うんともすんとも言わないかわりに提案をしてきた。
「……もう、やめてもいいんですよ。」
ソファの隣がたわむ感覚がした。
つかず離れずの距離。
やめません。
と声に出すのが怖いから、ゆるく首を横に振る。
もう冷たくなりかけた白湯を一気に胃に流して、陶器に爪を立てたまま、また奥歯で舌を噛む。
「貴方が無理をする必要はありません。」
言外に、俺の働きなんて必要ないと言われている。
所詮、アルファだ。
俺の苦しみは俺しか理解できない。
今まで生きてきた24年間で嫌という程思い知らされてきた。
『無理してません』
馬鹿だよなあ。
負けず嫌いで頑固で融通が利かない。
そのくせ、痛いところを突かれて優しくされると、頼りたくなる。
本能のところが喜んでる。
解放されたい。今しかない。
でもプライドが許さない。
オメガに生まれたプライドが。
このまま押し問答が続くかと思っていた。
もしくはこれで終わるか。
けれど、予想はすべて外れた。
「嫌だったら、突き飛ばしてください。」
体が一対の腕に包まれた。
それが優しいとわかってしまったから、突き飛ばせなかった。
「もし、脅迫的な何かに縛られてやめられないというのなら」
優しい腕と、頬にくっつく入間さんの鎖骨。
けれど声は酷くかたくて冷たい。
「私のために、やめてください。」
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Last(プロフ) - 抹茶タピオカ2号さん» 抹茶タピオカ2号様、ありがとうございます!今後の励みになります! (2021年4月4日 12時) (レス) id: 359977b810 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - どぽぽさん» どぽぽ様、ありがとうございます!読んでいただけてとても嬉しいです。 (2021年4月4日 12時) (レス) id: 359977b810 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶タピオカ2号 - ヤバいですねもう最高です。神ですか?神なんですか?もう最高過ぎます。口のニヤニヤどうにかしてくれませんかねッッ?!?!(((殴とても面白かったです!完結おめでとうございます!!神作品ありがとうございました!!!!! (2021年3月15日 0時) (レス) id: 055f35baff (このIDを非表示/違反報告)
どぽぽ(プロフ) - はぁ、好きです。好きすぎてしんどいです。夢主くんと入間さんの関係性が凄くタイプです。読んでいる間ずっとニヤニヤ口角が緩みました笑もっと早くこの小説と出会いたかったです。過去の自分を強く呪ってます…。素敵な小説ありがとうございます!! (2021年3月4日 14時) (レス) id: 7f61df18d8 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - てる。さん» わーい、ありがとうございます。 (2021年2月10日 18時) (レス) id: 359977b810 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2020年3月20日 22時