【入間銃兎】運命だけど、恋じゃない。【男主】

惑い、 ページ35

ゴッシゴッシ風呂場のタイルを磨く
普段はここまで掃除しないけど、何かしらやってないと落ち着かない


気を抜くと白いタイルに入間さんの顔が思い浮かんで、殊更強く磨く
実物だったら顔面が大変なことになってるなこれ


宣言する
俺は入間さんのことが好きじゃない！！！


あんな無表情で冷たくて何を考えているかわからない人、好きになるわけない
まぁ、顔はいいかもしれないけどさ…

っていうか恋仲って…いつの時代の武士だよ



『ま、まぁ…美味しいって言ってくれたのは、嬉しかったけど…』



零れた言葉と、柔らかい笑顔に一瞬絆されたのは事実
一瞬だけだぞ！！

入間さんでよかったって、思ったのも、事実……
今は撤回したけどな！！



『す、すきじゃないし…』



ってこれじゃ俺がツンデレみたいじゃないか！！違うし！！



『ってあぁぁぁそれがツンデレみたいなんだってば！！！』
「あの……Aさん」
『うわッでた！！！』



思わずゴキブリみたいに扱ってしまったのは悪いと思うけど、入間さんだって悪い！！いやこれは積極的に入間さんが悪い



「覗くつもりはなかったのですが…」

『あ、あぁ…はい……それは、承知してます……』



きっ…気まずい
そりゃ、入間さんの帰ってくる家はここだしいつか帰ってくるんだろうけど気まずい
こんなことなら実家に帰＿＿＿



「よかったです。実家に帰っているものかと…」



帰っていればよかった！！俺のバカ！！

そして沈黙
タイルを磨く手を止め、けれど入間さんを見られない。入間さんは一歩も動かない

初動を開始したのは入間さんだった
風呂場の床に座り込んで、俺の手を握った

汚れているうえに、水で濡れた手を躊躇もなく、握った

それだけで俺ははしたないくらい肩をびくつかせて狼狽した
好きじゃないって言ったばっかなのに！！



『いっ……入間さん、汚いですから！！それにスーツも濡れますし…』
「……こんなに、手を冷たくして」



銃兎、と訂正されなかった。諦めたのだろうか
それよりも大事そうに両手の指先を握られて、顔も隠せず俺は赤面する

入間さんは俯いていて俺の顔を見ていない……よかった



「Aさ……ん」



って思った傍からこれだよ！！

目が合って、俺は真っ赤で、対照的に入間さんは悲しそうで
さっきまで喧嘩？してたのが嘘みたいで



入間さんに見立てた床を全力で擦ってました、なんて口が裂けても言えない

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