【入間銃兎】運命だけど、恋じゃない。【男主】

腐蝕の王 ページ24

昨日の残りの白米は冷蔵庫にあったためパラッパラ。

お陰様で結構うまくできたと思う。……俺の味覚に問題がなければ。
あとは舌の肥えた(偏見)入間さんのお眼鏡にかなうかどうか。眼鏡だけにね。



『……どっどっ、doze(ドーズ)』



めちゃくちゃ活舌よく発音したけど、どうぞって言いたかったの噛んでるから。
場合によってはうたた寝どころか永眠だから。



「いただきます」



しっかり手を合わせてくれる入間さん、眼鏡、曇ってますよ。


これが新妻ならお盆とかで顔を半分隠して恥じらいのポーズをとるところだろうけど、生憎この家にお盆は無い。
俺は自分のために作ったはずなのになぜか直立不動で冷や汗ダラダラの恐慌状態。

俺は皇帝の料理番か何かですか？


スプーンが入間さんの口に運ばれる。
俺は顔を逸らし、余計な記憶がメチル水銀のように流出するのを舌を噛んで堪え、切れなかった。





忘れもしない、中学生の時の調理実習。



＿＿お前が作ったもんなんか食べられっかよ！！

＿＿Aが触った食材だって！きったね〜

＿＿オメガが作った食いもん食べると、ハツジョーすんだってよ！！

＿＿あーもーダメ〜って？？


ゲラゲラゲラゲラ



あーあーうるさいうるさいカエルの大合唱。
思春期のガキなんてこんなもんだろと同い年なのに冷ややかに考えていた。


けれども、その経験が確かに
俺に『料理』を恐怖対象にさせていた。

まるで腐蝕の王。触れたもの全てを腐らせる。
今だって阿保らしく、入間さんの口に入るアレが何かしらの作用をもたらすのではと気が気でない。



正直、もっと躊躇してほしかった。

オメガの作ったものなんて食べられるかとひっくり返してほしかった。

どうしよう。

自分で手ずから作ったのに、『何も入っていない』自信がない。

これでもし入間さんに何か起こったら＿＿＿





「美味い」





一言、零れた。





「ええ、美味しいです」





二言、零した。





「我ながら、良い妻を持ちましたね」





三言目で、瓦解した。

心の奥底からまるで突き立てるように熱が。
引き結んだ唇から言葉が出ない。
目の前が歪んで、情けない、とは思うけど。



認められることがこんなに嬉しいなんて。



はじめて知った。
オメガだからと前頭につけられる日々。俺自身疑わなかった。




「……A、さん！？」




入間さんが口をパクパクさせる。


ああ、違う。違うんです。

ただ、そう。

入間さんでよかった。

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