能力荘の非凡な毎日 (ページ26)

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春と奮闘の爪痕【御薬袋涼雅】ページ26

「………帰った」
　「まぢだり～…ってなにこれ、ご飯の匂いすんだけど」

二つの声が聞こえた。

　「………誰だ？」

謎の二つの声の登場に驚いた俺は、サーモンマリネと唐揚げを交互につまんで食べていた箸をぴたりと静止させた。
しかし、他の住人たちはこういったことにはもう慣れっこの様で声の主に構うことなくどんどん胃袋に夕飯をおさめていく。

二人の人物の姿が見えたその刹那、俺はぎょっとして唐揚げを喉に詰まらせそうになった。
一人はくすんだピンク色の髪の女子高生。
もう一人は、メッチャ背が高くて目つきが悪い四十そこそこであろうオッサン。
それだけでも十分怖いっていうのにも拘らず、絶対に堅気の人間では無いということを示唆するように鋭い目つきをしている。
先ほどの樫美さんとは違った威圧感が、彼の周りに滝のようにドバドバと溢れ出していた。

どうにも樫美さんやあのオッサンのような威圧感には弱い俺。思わずオッサンに目が行ってしまう。
俺が舐めるように凝視してしまったからか、その鋭い紅の双眸でギラリと睨み返されてしまった。

まさに蛇に睨まれた蛙状態、冷や汗がぽたりと額を流れ落ち、腰が抜けそうになるのを必死にこらえる。
なんだよ、あのオッサン！挨拶くらいしろってぇの！
強がって心の中で毒づいてみるが、いくら毒づいたところで恐怖が拭えるわけがない。

酸欠状態の出店の金魚のように口をあんぐり開けて目ン玉を飛び出さんばかりに開いている俺を一瞥すると、おっさんは先ほど机に皿を運んできた住人―ええと…聖籠鷹央さんだっけか…？―に向かって片手をあげた。
　
　「よう、鷹央。元気か？」
　「ああ、雄琴さん！おかえり～。そりゃもちろん、元気！」
　「…おう、そうか。ところで、今日のメシは？」

あれだけ俺からの注視を浴びていたのだから、名前の一つくらい聞かれるかと思っていた
もんだから、安心で腰が砕ける代わりに椅子からずり落ちてしまった。
って、メシかよ。
少々遅れて俺の心の中のツッコミが入る。

　「今日のメニュー？今のところ唐揚げとサーモンマリネ出てるよ」

その言葉に、おっさんはぐっと右手の拳を握る。
右手の拳には普通に生活していれば負わないような切り傷がたくさんあり、なんだか痛々しかった。
それと同時に、このおっさんが堅気の人間でない説の株が俺の中で急上昇したのは、言うまでもないだろう。

　「よし。他の蟒蛇共はどうしてやがるんだ？」