能力荘の非凡な毎日 (ページ22)

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貫通する思想と胎動【御薬袋涼雅】ページ22

さて、あの後昼食を取った後、俺はホームセンターで購入した最低限のお金で購入した最低限の家具を部屋に持っていき、片っ端から引越センターのお世辞にもかっこいいと言えないような正直ダサいロゴが入った段ボール箱を開けて必死に荷解きすることになった。

何故昨日やらなかったと言うと、午後十一時に片時雨館到着、そのままぶっ倒れるかのように部屋で寝てしまったからである。

意外にこの荷解きが大変だった。何度額を伝う汗を右手の甲で拭っただろうか。
鷹に荷解きが出来るわけ無いと判っていながらも、何もせずにうたた寝モードに入っている蘇芳を睨みながら、引っ越し会社のロゴのデザインに対して愚痴っているうちに荷解きが完了した。

正式にはこの後引っ越しを手伝ってくれた人と蕎麦をすするらしいが、そもそも業者は帰ってしまったので蕎麦は断念。
しかも俺は蕎麦そんなに好きじゃねえけどな。ていうか食べ物の好き嫌いがそんなにねえや、俺。

そんなことをぶつぶつ心の中でぼやいていると、コンコンと何者かが締め切った俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

　「……誰だ？」

眉間に皺が寄るのが自分で判った。訝しむような俺と蘇芳の鋭い視線が、ドアへと集中する。
何故か判らないが、こういう時は蘇芳と妙に気が合う。不思議なもんだよな。
俺は蘇芳と顔を見合わせたまんま、一歩一歩ドアへと進んでいく。
ドアの前まで来た。俺は、ガチャリとノブを回した。

ぎょっとした。
見知らぬ顔の俺と同い年くらいの人(おそらく俺と同じ片時雨館の住人)が、ドアの前に立っていたからだ。
襟足がきっちりと揃えられたボブカットの青い髪。
前髪は長く四方八方にばらついており、完全に左目が隠されていた。

　「御薬袋さん、ですよね？」
　「あ…どうも。御薬袋ッス」

物を言わさぬ迫力で、冷たいけどなかなか目が離せない雰囲気を全身にまとった目の前の人は、「私の名前は樫美諷と言いますです。よろしくです」と右手をすっと差し出した。
いきなり握手を求められたものだから、(しかも女性に！)俺はすっかりフリーズしてしまった。

　「あっ、宜しくでっす」

差し出された手をおそるおそる握り返す。
その手は彼女の雰囲気とはうって変わって、いい具合に渇いていてそれでいて温かかった。
その手に対して、俺の手は先ほどの作業のせいでじっとりと湿っている。
悪い思いをさせてしまっては申し訳ないなと慌てて手を引っ込めた。

　「さて、食堂行きましょう」