能力荘の非凡な毎日 (ページ17)

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オモイデ　２【東雲朱司】ページ17

店を出ようとすると、聞きなれた可愛らしい声が朱司を引き留めた。
「ツクさん…！」
「偶然ー！朱司ちゃん何買ったの～？あんぱん？いいね～！」
「ツクさんも小腹満たし？一体何買っ…」
彼女が両手に抱えているビニール袋にはこれでもかという風に大量のカップ麺が詰められていた。
「あ、そうそう。さっきね～今日限定オリジナルビッグパフェ、売り切れてたな～…ショック…」
ついさっきの笑顔はどこへやら。悲しげな表情を浮かべた友人と朱司は並んで歩く。
「それでね～確か78年前も同じようなことがあったんだけど～」
一体いつの話をしているんだ…
感情の浮き沈みが激しかったり、朱司が生まれる前の話をしたり、何もないところで躓きかけてひやひやさせたり。
よく朱司はこの少女に振り回されるが、自分には持ち合わせていない明るくて楽しくて可愛らしい彼女のことを憎めないでいる。実際、一緒にいて楽しくなれる大事な友達だ。

「まなみちゃん、今日の遠足、どうだった？」
「楽しかった！思い出がいっぱいできたよ！」
2人の少し前を、小さな女の子と母親が連れ立って歩いていた。
他愛もない、日常的で、ごく平凡な会話。
のはずなのに、なぜか朱司の体が硬直した。

『どなたでしょうか？』
『朱司の影響で母さんは記憶を失ってしまったんだ』
『お前頭おかしいんじゃねーのｗ』
首を傾げた母親。
深刻な表情をする父親。
嘲るように笑うクラスメート。
沢山の記憶が、朱司の頭をぐるぐる回った。

朱司の様子に違和感を感じた白は、朱司の手を強く握りしめる。
「朱司ちゃん～！」
「あっツクさん…」
「大丈夫～？目、死んでたよ～？」
「うん…大丈夫……」
ついさっきの母娘の光景が、まだ頭に残る。
「…朱司ちゃ～～ん！！」
「はいっっ！？」
「今から、お買い物行こう！」
「え？今から？」
訝しげに白を見つめると、彼女は楽しそうに笑った。
「うん！ショッピング～！あっ、別のお店にパフェ食べに行くのもいいね～！
　いっぱい『思い出』つくろうよ～！」

はっとした。
【『思い出』つくろうよ】
白の声が頭の中で何度もこだまする。
そうだ。
いくら過去を引きずってたって何も変わらない。
ツクさんがよく知っていることだ。
今までの大事な思い出が消えてしまえば、
また新しい思い出を作ってしまえばいい。

「うん…！」
今日一番の笑顔を見せ、少女二人は夕日が照らしかけているコンクリートの道を競争するように走っていった。