義勇からみた彼女 ページ44
案内された場所へ付いて行けば、以前A殿と話をするために来た公園へ辿り着いた。
屋根の付いた休憩所らしき場所で椅子に腰掛けている彼女の名前を呼ぶ。
二度呼んだところで、ゆっくり振り返った彼女が驚いた表情でこちらを見た。
「………どうして義勇さんがここに?」
「鴉が知らせてくれた。A殿が一人で家を飛び出したと」
「鴉さんが…」
そう言った彼女の顔を休憩所の手前にあった街灯の明かりが薄く照していた。
暗くて解り難いが、目元が赤くなっている。
そして、その目尻が薄い街灯の明かりに軽く反射して一瞬光った。
「何があった」
歩み寄れば、さっと体を背けてからもう一度こちらを振り向く。
「何でもありませんよ」
気が付くと悲しそうに笑うその目元にすっと手を伸ばしていた。
彼女の肩がびくっと跳ねて半歩後ずさった。
拒絶された反応に、俺は何をやろうとしていたのかと、我に返る。
彼女には婚約者がいるのだ。
「…すまない」
「い、いえ、驚いただけ、ですから…」
目をそらしたA殿。
しかし、先ほどから様子が変だ。
「何でもない様には見えないが…」
聞けば少し間を置いてから彼女が口を開く。
「………勇作さんと、少し喧嘩してしまいました」
「勇作殿と」
「彼にはやっぱり雪乃でなければ駄目なのかもしれません。私はあの子の代わりになれない。だから、私では彼を怒らせてしまう。…怖くなって、逃げてきてしまいました」
そう言った彼女の体が震えていた。
「A殿…」
「ごめんなさい…こんな話」
申し訳なさそうに俯く彼女になんと声を掛けるべきか分からず、「いや」と濁す。
「だが…こんな時間に女性が一人で出歩くのは危険だ。それにA殿は鬼に狙われているのだから、戻られた方がいい」
あくまでも俺は鬼狩りとして彼女の身を案じ、その義務を果たさなければならない。
そうやって己に言い聞かせていると、思いがけない言葉が返ってくる。
「帰りたくありません…」
小さな声だったが、はっきり聞こえた。
周囲の目を気にし続けている真面目そうなお嬢さんには似つかわしくない言葉に、聞き間違えかと耳を疑う。
「…A殿?………今なんと?」
けれど、曖昧に笑う彼女は別の言葉を口にした。
「“義勇さんらしい言葉ですね”と言ったんです」
健気に振る舞うその姿に、俺はそれ以上問い詰めることが出来なくて「…そうか」と頷いた。
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月見(プロフ) - はぁぶ。@3ちゃいさん» コメントありがとうございます!1日1話ゆっくりですが更新していきますので、完結までよろしくお願いします!! (2020年10月26日 6時) (レス) id: 9eeadbb9f3 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。@3ちゃい - 普通に続きが気になる…作者さんのペースで更新頑張ってください!応援してます! (2020年10月25日 22時) (レス) id: 4dd2fcae8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2020年9月24日 19時