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「……俺は、Aが囮になるくらいなら自分が消えた方がマシだ」
夕日が落ちて、月明かりが照らす夜。泣いているAと黙っていた遊作、先に言葉を発したのは彼の方だった。真剣な顔がAをじっと見つめて、言葉を紡ぐ。
「俺には記憶が無い、失うものだってない。だが一つだけ、失くせない無くしたくない…大切なものがある」
「……」
「A、お前は俺の唯一の記憶だ。欠けた俺の、たった一つ紡いできた、紡いだもの。それを俺から奪うのか」
「そんなの…私だって…私の記憶だって、遊作だけだよ」
「なら、」
「でも、そんなの同じでしょ!?遊作が私を失いたくないように、私も遊作を失いたくない。もう、何も無いのは嫌だ」
お互いがお互いを思う故に、自分を追い詰めてきた。そういう生き方しかできない歪んだ二人が、顔を見合わせる。泣き崩れたAと顔を歪める遊作の片方の頬は叩きあったせいで赤く染まっている。真剣な表情のAに遊作が押し黙れば、すかさず話を繋げた。
「私は遊作を失いたくない、一緒に復讐を成し遂げたい。その為には今回の案件を一人で任せるにはリスクが大きい、それは分かってるでしょ」
「……なら、三つ。約束しろ」
「約束…?」
「一つ、自分の身は自分で守る。二つ、何があっても俺を庇うような行為はするな。そして、三つ。何が何でもソルテクノロジーの情報を手に入れる」
出来るな?、そう言った遊作にAが大きく頷けば遊作がふっ、と息を洩らした。嬉しそうに笑うAに、遊作が赤く染まる右頬に手を添える。
「叩いて悪かった」
「大丈夫だよ。遊作、手加減して左手で叩いてくれてるし」
「Aの方は本気でぶん殴りに来たけどな」
「ついカッとなって…、ごめんね。遊作こそ大丈夫?痛いでしょ……」
心配そうに彼の頬を見つめるAが、こつんとおでこ同士をくっつけ合わせる。大丈夫だ、と遊作がAの頭を撫でて、心配を取り除くように少し微笑む。Aがもう一度謝ると、頭を撫でていた手を今度は背中へと回した。
「必ず、記憶を取り戻してハノイの騎士を潰す…その為なら私達はなんでもする」
冷めた目のAが、遊作の肩に顔をうずめたまま月を睨む。その言葉に、遊作が同調を示すと今度こそ二人の心に闇が灯った。
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*鏡花*(プロフ) - とっても面白いです!更新頑張ってください!楽しみにしてマース((o(。>ω<。)o)) (2018年1月27日 6時) (レス) id: 9c1718446a (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - ヨシュアさん» 再度コメントありがとうございます。実はリアルファイト、VRAINSでもやってほしい!という私自身の希望でして…。夢主は決闘で決着!という決闘者観念より、助ける為の手段は問わない!を選択する子だろうなっていう小ネタでした!にやっとして頂けたなら嬉しいです! (2017年9月27日 23時) (レス) id: 2c7774ba2e (このIDを非表示/違反報告)
ヨシュア(プロフ) - 遊戯王恒例(?)のリアルファイト…!VRAINSではまだありませんが、デュエル(物理)に思わずにやっとしました(笑) (2017年9月27日 21時) (レス) id: 79e3295e29 (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 衣深汰さん» わ〜!コメントありがとうございます。遊作くんと夢主ちゃんの関係は互いの心の拠り所であればいいなぁ…という思いで書かせて頂いてます。夢主ちゃんとみんなの絡みが癒しになっていれば幸いです!!これからも小説共々よろしくお願いします。 (2017年9月24日 18時) (レス) id: 012664095e (このIDを非表示/違反報告)
衣深汰(プロフ) - コメント失礼します!遊作くんと夢主ちゃんの関係がとても良いです…!そこに草薙さんとイグニスも入って癒しが…!言葉が足らなずすみません…!更新頑張ってください! (2017年9月24日 2時) (レス) id: 51088f03f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年9月17日 16時